星に願う

運命との邂逅


「ははっ、んなに身構えんなよ。俺は知っての通り“マギ”のジュダル。なぁ姫、お前の名前は?」
「、ユナ」

彼の周りのルフはおかしい。真っ白であるはずのそれは存在せず、代わりに彼の髪と同じ、漆黒のそれが存在するばかり。

「ユナね。ババアみたいのだとどうしようと思ってたけど、案外可愛いじゃん!」
「あの、ジュダルは“ソロモンの姫”について知っているの?」
「あ?なに、ユナ知らねぇの?」

ジュダルがきょとんとした表情で私を見る。

「全く知らないってわけではないけど…。」
「ふーん……。」

私の返答にジュダルはそう言って考え込んでしまった。

「あの、ジュダル?」
「………なぁ、ユナ。俺を選べよ。」
「選ぶ?………っ!?」

ジュダルが私の手に触れた瞬間、様々な映像が、知識が私の中に流れ込んできて、あまりにも膨大なそれに体がふらつく。真っ黒なそれが、私に、手を、伸ばす。



「…ぃ、…おい!大丈夫かよ?」
「っ、ご、ごめんなさい!」

はっと気がつけば私は心配そうな顔をしたジュダルに支えられていた。しかし、私はもう知ってしまったのだ。理解させられてしまった。

「ジュダルは…“堕転”、してしまっているんだね。」
「…ハハっ!さっすが“姫”!もう全部知っちまったのか!」
「っ、」
「なぁ、俺を選べよ。俺んとこまで堕ちてこい、ユナ」

ジュダルの声がまるで麻薬のように私をおかす。これに身を任せてしまえば、私は楽になれるのかな…?もう堕ちるところまで、堕ちてしまえば…―――


「っつ!?」

意識が沈みかけたところで私の手首のリングが光を発しジュダルを弾いた。

「んだよ、“それ”もあんのかよ!」

ジュダルが忌々しげにリングを見つめた。やはりこれはあの本に書いてあったものと同じものなのだろうか。けれど、

「んだよ、いいとこだったのによぉ!」

今、これはおそらく私を守ってくれた。甘い誘惑に溺れそうになっていた私を救ってくれた。これだけは確かなことだ。

「ハッ!まぁいい!これからいくらでもチャンスはあんだ!そろそろあいつも気づく頃だし、今日は一端さよならだ、ユナ」

ジュダルはそう言うと、窓から飛び去って言った。するとすぐにばたばたと足音が聞こえた。

「ユナ!」
「、シ、ン…」

思わず座り込んでいた私にシンが駆け寄ってくる。ジュダルの言っていたあいつとはシンのことなのだろうか。心配そうに私のもとへ駆け寄る彼は出会ったときのまま、優しく強い人だ。
…けれど、私は知ってしまったのだ。ありすぎる知識は、時に知りたくない現実という名の匣を無理やりこじ開けて私に突きつける。



「シン……堕転、してるの…?」

例えそれが開けてはいけないパンドラの匣なのだとしても。

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