星に願う

君について


「それでユナはどうだ、ヤムライハ。」
「はい。才能には溢れているのは確かなんですが…何故か術式が出来ないんです。」
「この間も逃げ出してしましたしね。どこかのバカ王に似てしまったのではないかと。」
「そっそれでも魔法は使えるのだろう。」

ジャーファルさんの小言を無理やり聞き流して王は話を続ける。王はジャーファルさんのあの冷たい視線に気づいているのだろうか。

「えぇ。……やはり彼女が特別だからではないかと。」
「“ソロモンの姫”…か。」

私の言葉に王はふむ、と考え込む。私はそんな王に私の推測を口に出す。

「恐らく、まだ力が完全ではないのではないかと考えているのです。」
「完全ではない?」

ジャーファルさんが不思議そうにそう繰り返す。王は視線で私に続きを促す。

「元々姫という存在は謎大き存在ですから断定はできませんが…。“ソロモンの姫”本来の力が完全に開花していない為に、術式が理解出来ないのではないかと。」
「ふむ…力自体は身に宿しているから術式を理解出来ずとも魔法は使える、ということか。」

彼女に魔法を教えていると驚くことばかりだ。体内の魔力の量はもちろんのこと、複雑な術式の魔法も一目見せればすぐに同じことができる。最初のうちは少し嫉妬も覚えた。一応私も天才魔導士と呼ばれてきていた身。彼女、ユナはそんな私の魔法もまるでスポンジが水を吸収するかのようにすぐに習得するのだ。嫉妬しない筈が、ない。

けれど彼女はそんな私に真っ白な笑顔で笑って、言ったのだ。「ねぇ、ヤムライハ。」
「何?」
「“かぞく”ってこんな感じなのかな?」
「え?」
「私、ずっとアークと二人だったからさ。“かぞく”ってどういうものなのかなってずっと気になってたの。」
「ユナ…」
「でもね、分かった気がする。きっと“お姉ちゃん”がいたらヤムライハみたいなんだろうなって!」
「私?」
「うん!ヤムライハみたいにいろんなこと教えてくれて、叱ってくれて、でも最後は“すごいわね”って褒めてくれるんだろうなって!」
「っ」


私は、そこで嫉妬していた自分がなんて情けないんだろうと思った。こんなに純粋に私を慕ってくれるこの子にそんな感情を抱いていた自分がすごく、恥ずかしかった。
それに、ユナは術式に関しては並み以下もいいところで、毎日追い掛け回しているうちにそんな感情はまるで霧散したかのように消えていた。


「しかし、今が完全ではないと仮定すると、完全になれば果たしてどうなるのか…」

そう考え込む王の顔はいつもの遊び呆けているシンドバッドの顔ではなくて。

「私にも、分かりかねます。」

その顔を見て、どうかできることならばユナを“ソロモンの姫”として利用する未来が、戦争の道具として利用するような未来が少しでも遠のくようにと願ってしまった私は、この国の八人将として失格なのだろうか。

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