星に願う
馴染んだ空気
「いやぁあああ!無理無理無理ですぅううう!」
「こら!待ちなさいユナっ!今日という今日は許さないわよ!」
どたたたたたっと騒がしい音を立てて走る。私がここ、シンドリアに滞在して早1ヶ月と少し。食客として役に立つべく文官の仕事を手伝ったり、警護の依頼を手伝ったりと大分この国に馴染めてきたとは思うが、1つだけ、どうしても馴染めないものがあった。
後ろから凄い形相をしたヤムライハが追い掛けて来ている。捕まったら、殺られる…!
「ジャーファルさん!ちょっと匿って!」
「またですか…。」
とっさに角を曲がり、部屋に飛び込んだ。部屋にいるお馴染みの彼に助けを求めると呆れたように笑いながら私を机の下にいれてくれた。
バァン!
「ユナ来ませんでしたか!?」
「えぇ、来ませんでしたよ。またシャルルカンかスパルトスのところでは?」
「今日という今日は許さないんだからっ」
扉の閉まる音がした。
「……行きました?」
「ええ、行きましたよ。」
机の下から少しだけ頭を覗かせ、部屋の中を見回す。どうやらいないようだ。私はほっと息をついた。
「また術式が嫌で逃げてきたんですか?」
「うぅ。だって理解出来ないんだもん…。」
「魔法が使えるのだから理解出来ないことはないはずなんですがね。
いつも魔法を使う時を思い出してみては?」
ジャーファルさんが仕事中だというのに私に紅茶を入れながらアドバイスをくれる。なんだか申し訳ない。
「やってみたんですけど、無理でした……」
「そうですか、…それは困りましたね。」
うぅう。別に魔法使えたら術式なんて理解できなくてもいいじゃないか!あんなにややこしいもの一生かかっても理解出来る気がしない。私がへこんでいると、ぽすりと頭の上になにかがのった。
「まぁユナのペースで頑張ればいいですよ。」
「うぅージャーファルさぁんん〜。」
優しく頭を撫でてくれるジャーファルさんは私の癒しだ。
「言い忘れてたんですけど……って」
「「あ」」
優しく励まされ、頑張ってみようかと思ったところで扉が再び開いた。扉を開けた人物と目が合う。たらり、と冷や汗が頬を伝う。
「っユナー!」
「ごごごっごめんなさいぃい!」
ヤムライハが鬼の形相で怒っている。私はもうとにかく平謝りするしかないと思い、謝った。
「もう!また逃げ出して!」
「うぅう、だってぇ〜」
「だってもなにもないの!」
美人が怒ると、やっぱり怖い。とそこで怒りの矛先が変わった。
「ジャーファルさんもジャーファルさんですよ!貴方はユナに甘すぎです!」
「う、すみません。」
私のせいで怒られているのかと思うと、かなり罪悪感を感じる。
「ヤムライハ、私が悪いんだからそんなにジャーファルさん怒らないで。」
「んもうっ!悪いとわかっているなら逃げ出さないの!ほら、行くわよ!」
「はい…。ジャーファルさん、邪魔してすみませんでした。」
「いえ、頑張ってくださいね。」
私はまだぷりぷりと怒るヤムライハさんに腕を引かれ、部屋を後にした。
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