星に願う

暗闇に隠す


少し風に当たろうと思った私はピスティと別れた後、人気の少ないところでのんびりとしていた。賑やかなお祭りを遠目に見ていると、改めて良い国なんだなぁと思う。いろんな種族の人々が互いに手を取り合って、一緒にこのお祭りを楽しんでいる。キラキラとした綺麗なルフが楽しそうに舞っているのが分かって、私はつい口元を緩めた。それでも、はたと思う。

「でも、こんな国ばっかりじゃないんだよね、」

アークの言っていた世界の異変。それは人々から平穏を奪う不穏な動き。そしてそれによって歪められた運命を正しい流れに戻す、それが私の使命の1つ。
全ての人が平和に、なんてそんな有り得ない夢物語を描いているわけではないけれど、この異変は誰かがなんとかしなければ世界はきっと混沌に呑み込まれてしまうから。
私は自分の手をぎゅっと握りしめた。と、そこでカツンと後ろから足音が聞こえたので振り向く。
「お暇ですか?」
「ジャーファルさん。どうしたんですか?」

そこにはジャーファルさんが立っていた。シンさんの傍に控えていなくても良いのだろうか。しかしそんな私の疑問を他所にジャーファルは口を開く。

「少し貴女と話がしたくて。」
「話?」
「えぇ。先ほどのことを謝りたくて…。後から冷静になって考えてみれば、とても恩人にとる態度ではありませんでしたから……」

疑問を頭から追い出し、言われたことを理解するために頭を回す。先ほど、とは私が目覚めた頃のことを言っているのだろうか。別に彼が謝る必要なんてどこにもないのに。

「気にしないでください、ジャーファルさん。貴方のとった行動は政務官として当たり前のものじゃないですか。」
「しかし、」
「私は怒ってなんかいませんし、むしろ逆に凄いと思いました。」
「凄い?」
「はい。そこまでシンを、国を大切に思ってるんだって。それって凄いことでしょう?」
「、」
「ですから尊敬する人に頭を下げさせたくはないんです。頭をあげてくれませんか?」

私は彼の目をじっと見つめた。数秒見つめあった後、折れたのはジャーファルさんだった。

「そこまで言われてしまえば、あげるしかないじゃないですか。」

少し悔しそうな彼の顔。私は、別に思ったことを言っただけですよ、と彼に笑いかけた。

「……ありがとうございます、」
「ふふ、何がですか?」
「、全く貴女という人は…。」

ジャーファルさんもしょうがないとでも言うように笑った。何だか暖かい人だなぁ。

「くしゅっ」

少しの間、ほのぼのとした時が流れていたが、日も落ちてきていたため流石に今の格好は少し肌寒かったようでくしゃみがでた。それを聞いたジャーファルさんが口を開く。

「いくらシンドリアといえど、夜は冷えます。さ、もう中へ。風邪をひいては大変ですよ。」
「えぇ、もう少し空を眺めてちゃだめですか?」
「だめです!今くしゃみをしていたでしょう。ほら中へ入って温かくしなさい。」

私の希望もジャーファルさんによってぴしゃりとはね除けられてしまった。くしゃみくらい誰でも不意に出るのに。でもこんな会話、嫌いじゃないかもしれない。だって、

「ジャーファルさん、“おかあさん”みたい。」
「は?」
「白い部屋で読んだ本の中で、“おかあさん”が似たような台詞言ってたから。だからジャーファルさんは“おかあさん”!」
「、そもそも性別が違いますよ。」
「あ、」
「ふ、ほら、早く入りますよ、ユナ」
「!」

今、ジャーファルさん私のこと名前で、呼んだ?初めて呼ばれたのが嬉しくて、顔が少しにやけるのが分かった。

「はいっ!」

何だか少し、認められたような気がして私はしばらく弛む頬を引き締めることが出来なかった。

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