あぁ愛しい人


――あぁ
泣かないで、愛しいひと
ごぷり、と喉から生暖かいものが逆流するのを感じながらそんなことを考える。目の前にはいつも飄々と笑っている佐助の泣きそうな顔。

「そ、な顔…しな、でよ、佐助」

へへ、と笑って見せる。でも佐助は未だに泣きそうな顔だ。いつものへらり、とした顔の面影すらない。そんな顔が見たかったわけじゃないんだけどなあ。

「っなんで、なんで俺なんかを…っ」

そう、私は自分が戦闘中だったにも関わらず佐助を助けた。そんなに強くもない私がそんなことをしたからか、この有り様だ。

「、なんか、なんて、いわな、でよ
体が勝手に、動い、たの」

ねぇ、いつもみたいに笑ってよ。
相変わらず馬鹿だなぁって呆れたようにさ。私はあんたの悲しい顔なんて嫌いだよ。

「っざけんな!お前なんかに、守られたって嬉しくなんかないんだよ…っ」

「ふふ、ごめ、ねぇ」

でも、私が佐助の人間の顔を引き出してるって考えればそんなに悪くはないのかもね。
なんて余裕そうに心の中で呟いてみても体は正直なもので、もう駄目みたいだ。貴方の鮮やかな橙が掠れる。

ねぇ、佐助
愛してる、なんて告げる気はないよ。
はじめはそう言えば、私を忘れないかな、って思ってたけど、私はあんたを、忍である猿飛佐助を縛りたくはないんだ。

まぁこんな考え、あんたが私の事をなんとも思ってなかったら、ただの笑い話だけどね。まぁ同郷のよしみもあるんだし、可哀想くらいには思ってはくれるかな。最後の力を振り絞って感覚の無い手を伸ばす。

「ね、また、会、いた、いな…ぁ」

あぁ、人間に最後に残るのは聴覚だと言うけれど、そうで良かった。最期に貴方の声が聴けて、私幸せ者だ。上手く笑えているだろうか。好きな人には死に際だって少しでも綺麗に見せたいもの。

「っ嘘だろ!?おいっふざけんなよ名前!」


ただ、「愛してる」が聴きたかったていうのは、少し欲張りだったかな。



(愛して、なんて言わないよ)(だから、せめて私のことを忘れないで)

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