理解不能なシャングリラ


「はぁ…」

お日様がぽかぽかと暖かい真昼の林を駆けながら、つい欠伸をこぼしてしまった。政宗さまも何もこんな真っ昼間から忍を使わなくたっていいのに、なんて愚痴ってみる。

「だる…」

「なにそのやる気のなさ」

「んあ、何でいんの?」

いきなり声をかけられたが、まぁ気配で誰かは分かっていたので顔も向けることなくそう返す。こいつに気遣いなんてするだけ無駄だ。

「相変わらずくーるだねぇ。」

「何だか政宗さま思い出すからヤメテ。ほら、鳥肌鳥肌。」

「…お前、ほんと何で独眼竜の旦那に仕えてんの?」

佐助が呆れたように私にそう問いかけてきた。そんなこと愚問だ。

「お給金がいいからだよ、決まってんじゃん。じゃなかったら誰があんな痛い人に仕えるか…あ、やばー本音が」

「ちょっとそこはもっと感情込めて!いくら独眼竜の旦那でも可哀想!」

「相変わらず元気だね、佐助は」

「誰がつっこませてんだよ!………ところでお給金いくらもらってんの?」

佐助が何故か恐る恐る聞いてきたのでとりあえず普通に教えてあげる。耳打ちすると面白いくらいに落ち込んだけど。

「え、あんた幸村さんからそんなにもらってないの?」

「貰ってたらこんなにおどろか……って幸村さん?」

「うん?」

「名前って旦那と会ったことあったっけ?」

「あぁ、この間政宗さまを回収…じゃなかった、迎えに行ったとき偶々会ったんだよ。で、名前でいいからって言われたから。」

「……………」

いやーあの時は顔真っ赤にしてたから何か粗相でもしたのかと焦った。
とこの間のことを思い出していると、佐助が黙りこんだ。

「佐助?なに、どうかした?」

「別に、どうもしてないよ?」

へらり、といつものように笑う佐助だが、幼少期からずっと一緒の私の目は誤魔化されない。

「嘘。結構佐助って分かりやすいよね。」

「、これでもよく何考えてんのかわかんないって結構言われんだけど。」

「えー?嘘だぁ!こんなに分かりやすいのにね」

「名前だけだと思うよ」

「えー?と、そうだ!私佐助に会いたかったの!」

私は、はたと真っ昼間からこんな林を駆けている理由を思い出した。

「!俺様に会いたかったの?」

「うん!すっごくね!」

何だか今度はご機嫌なオーラを纏い出した佐助に私は笑顔で答える。そして懐にある紙を取りだし、佐助に手渡す。

「これ渡したかったの!政宗さまから幸村さんへの文!
いやぁ、幸村さんのお城まで行くの面倒くさいからさぁ、ってなに転けてんの?」

「あ、あはー…やっぱり名前はそういう奴だったよね。」

「?」

「んーん。気にしないで。確かに文受け取りました、ってね。」

「変なの。
じゃあ私文も渡せたし、帰るね。」

目的も早々に達したことだし、早く帰って日向ぼっこしたい。

「あ、名前!」

体を帰る方向に向け駆け出そうとしたところで佐助に名前を呼ばれたので振り向こうとした、その瞬間、

「今度は、ちゃんと'俺様'に会いにきてね。」

ちゅっ




頬に柔らかいものが、触れた。

「…………う、うわああああああ?!」

その瞬間、静かな林の中に私の叫び声が響き、私は全速力でその場を逃げ出した。














理解不能なシャングリラ
(いくら旦那でも、流石にそうそう簡単には渡せないってね。)

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