ユートピアと猫


跡部景吾という男は一言でいうなら王様だ。絶対的な能力に整った容姿と才能、その上たくさんの努力とそれに裏付けられた自信は彼をさらに大きく見せる。現状に甘んじることなく努力している姿を決して見せびらかすことはしないけど、私は彼が誰よりストイックなのを知っている。

「何だ、さっきから。
俺に見惚れでもしてたか?」

じっと景吾を眺めながらそんなことを考えていると、視線に気づいた彼が私を見た。

「ん。そうかも」

「は、何だ、珍しく素直じゃねぇか。」

「んー。」

だから、私は常に不安だ。何かに秀でているわけでもなければ、外見が良いわけでも、器量が良いわけでもない。ただ、彼の幼馴染みで、ずっと傍にいたからその延長のような感じで付き合っているんじゃないかって。

俯かせていた目線を少し上げると、アイスブルーの瞳と目が合う。そしてその瞳が呆れたように少し細められた。

「俺が、好きでもない女をずっと傍に置いておくと思うか?」

「、」

どうやら目の前の王様は目が合うだけで思考が読み取れるらしい。

「ただの惰性で、ずっとお前みたいなのといると思うか?」

「、みたいなのって…」

確かにそうだけど、なんて言葉は余計に惨めになりそうで口には出さない。言い返せない時点で惨めなことに変わりは無いけれど、景吾の瞳には馬鹿にしたような色は映っていないから、そんなことは考えないことにする。

「…でも、」

「でもやだっては無しだ。お前は昔から余計な心配ばかりする。」

そうやって笑った景吾は相変わらず私のことをよく知っている。たまに私より私のことを知っているんじゃないかと思うぐらいに。

「こんな完璧な人がいつも隣に居たんだからしょうがないでしょ。」

なのに、私は大きくなるにつれ開く景吾との距離に戸惑って、こんな可愛くないことばかり言う。

「完璧か、まぁそうだな。」

それでも何で相手にしてくれるんだろう。何で私と一緒にいてくれるんだろう。こんな面倒くさい奴なのに。きっと私より景吾のことを理解してくれる子はいるだろうのに。

「…嘘だよ。景吾がすごく努力家だってこと、私知ってるから。」

完璧という言葉にどこか虚しげに笑った景吾は、私のその言葉にふ、といつもの支配者の空気を緩めて、年相応に笑った。

「ならこれからもお前だけがそれを知っていろ。俺の止まり木はお前だけでいい。」



ユートピアと猫
(きっとこの人には一生敵わない。)

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