目覚めなかった眠り姫


どうしてだろう。貴方を見ると、何故か胸の奥がもやもやして何かを求めているように切ない。

「名字、」「名前、」

食満くんはただのクラスメイトなのに、どうして苗字を呼ばれる度に名前で呼ばれたいだなんて思うの?そのくせこの声になんでこんなに安心しているの?

「どうしたの?食満くん」

「…――いや、何でもない。」

何でそんな切ない瞳で私を見つめるの。どうして私はこんなに泣きそうになってしまうの。ねぇ、―――。


「、泣いてるのか?」

「………何でか、わからないんだけどね、食満くんに名前呼ばれると、違和感があるの、」

おかしいよねとそう言葉を発する前に、食満くんの切れ長の目が見開かれた。こんな表情すらも懐かしいと、愛しいと感じる私がいる。

「、」

「食満くん見てるとね、何だか変に懐かしくて、切なくて、それで、」

そこで、また全部言い切る前に私の頬に少し体温の低い骨張った手が静かに、触れた。

(私、この手を、知ってる…?)

そうだ。私はどうしようもなくこの手を、求めていた。それなりに恋もして付き合って、それなのにずっと何か足りなかったのは、私に触れるのがこの手じゃなかったから。


「名前…」「名前!」

私の脳内で響くこの声は、何?目の前で悲しげに歪む彼の顔にずきりと胸が痛む。その理由はきっと私の知らない私の記憶にある。ふとした時や、夢に見る、不思議な記憶に。

「…留…、?あ、れ…何で、私、」

無意識に名前を呼ぼうとした自分に疑問を覚えて戸惑っていると、ぎゅうと力強く抱き締められた。

「名前、愛してる、愛してるんだ…」

たとえ、お前が全て忘れてしまっていても―――…。

「っ、」

骨が軋むくらいに強く抱き締められた私の細胞が、脳が、心が、彼を愛していると叫んだ。涙が一筋頬を伝い落ちて地面に一点の染みを残した。


目覚めなかった眠り姫
(お前が生きてくれてるだけで、俺は幸せだから)


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