魅入られた白雪姫


白雪姫ってお伽噺あるじゃん?俺あの話の魔女ってただの悪い奴なんかじゃなくて、白雪姫を愛してたんじゃないかって思うわけ。

愛してたからこそ殺すふりをして深い眠りにつかせ、意地の悪い継母や隣国の王子に見つからないように隠そうとしたんじゃないか。自分だけの白雪姫にしようとしたんじゃないかってね。

ただ、小人たちに彼女を任せたからそれが失敗しただけで。あのまま行けば実はあの話はある意味ハッピーエンドなわけだ。


「なぁ名前…、俺にしとけよ。」

そして、俺は魔女。傷ついて絶望以外知らないであろうお前にとびきり甘い毒林檎を差し出す。
お前がそれを毒と分からないように優しい言葉で何重にも隠して差し出すずる賢い、魔女だ。


「俺は、お前が好きだ。
あんな男忘れてさ…いや、俺が忘れさせてやるから。」

でも今の彼女の瞳に映る俺はきっと悪夢から彼女を救いにきた優しい王子様。本当の王子はあの男だったかもしれないのに。

「まだ忘れられなくてもいいから、俺の傍にいてくんねーかな。」

俺は用心深いから小人になんて彼女を任せない。だって小人なんかに任せちまったらまた違う王子がお前の前に現れんだろ?

だから最初から最後まで、俺1人で彼女を囲う。俺が自分の為にシナリオを作って自分の為だけに動くから。だから共演者なんか必要ない。それが俺のシナリオを脅かすならなおさらだ。



「………ばか、」

苦し気な顔をしながらも俺の腕の中に飛び込んできた彼女を優しく抱き止める。

「ほんと、馬鹿だよ…」

ぎゅうっと背中に回された手に思わず顔が緩む。だって名前の濡れた瞳には確かに俺だけが映ってたから。

「名前ちゃんが泣き止んでくれるなら馬鹿でもいーよ」

そう、君を手に入れられるなら、馬鹿でも魔女でも悪魔でもなんでもいい。
王子にだって小人にだって付け入る隙なんか与えてやんねーよ。

彼女を無事腕の中に囚えた俺は、きっと今魔女みたいな顔で笑っているんだろう。

魅入られた白雪姫
(それにしてもあいつも、ちょっと脅しただけでこいつを手放すなんてちょれーよな)(まぁそのお陰でこのお話はハッピーエンド、魔女は無事白雪姫を手に入れたってな。)

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