Melt


「お疲れ様でーす。」
「あ、名前ちゃん、今日これ作りすぎちゃったからあげるよ!」

そう言ってバイト先の見習いパティシエの新藤君が差し出したのは可愛いクッキーだった。

「わわっありがとう!大事に食べるね!」
「や、こっちこそ貰ってくれてありがとう」

何だか顔が赤い新藤君に明日お礼にのど飴をあげよう!と思いながらバイト先を後にした。


「紅茶あったかな?にしても美味しそーってぎゃーっ!」

クッキーを見ながらいつ食べようなんて考えていると、後ろから首に腕が回され咄嗟に叫ぶ。

「っせーよ!つかお前本当に女?」

しかし、聞き慣れた声に振り向くと花宮先輩がいた。

「だって不審者かと…っ!ていうか、先に声を掛けてくださいよ!急に首に腕回されたら誰でも叫びますから!」
「あーはいはい。」

自分が驚かした癖に何でこんなに適当なんだ、花宮ェ。

「あ、」

つい握ってしまった手にクッキーの無事を確かめた。幸い袋はくしゃりとしているが中は無事だ。

「何、それ」
「バイト先の新藤君、見習いパティシエがくれたんです。とっても美味しいんですよ?」

いつも試作品を味見させてくれるがどれもとても美味しい。

「それに先輩と違って好青年ですし!」

好青年、のところをあえて強調して言ってみる。すると、花宮先輩の眉間に皺が寄る。いつもの情景反射でびくりと体が震えた。

「あの、先輩?」
「好きなの?」
「……へ?」
「だから、そいつのこと好きなの?」
「や、全然!むしろ私なんてあっちの方からお断りだと思いますよ?!」

急に仏頂面で何てこと言い出すんだ、この先輩は…!慌てて否定する。

「ふうん。」

だから何で自分から聞いてきたくせにこんな無関心何だ、こいつ!

「って、あ!」

心の中で悪口を言っていると、手の中からクッキーが消えた。

「あぁー!ちょ、先輩!」

奪った犯人、花宮先輩の方を見ると先輩は留め具を外してクッキーを、食べた。

「あっま…。お前よくこんなん食えんな。」
「そりゃカカオ100%が好きな先輩からしたらってそうじゃなくて!返してくださいよ!」

文句を言いながらも着実にクッキーは花宮先輩の口の中に消える。

「うえ、砂糖吐く…」

そして、そう言いながらも全部食べきった。

「楽しみにしてたのに!酷い!」
「あ?きゃんきゃんうっせーよ。てかお前こんなんばっか食ってっとデブるぞ。」

うぐ、痛いところをつかれた!確かに最近、お腹回りが…。

図星をつかれ何も言えない私に花宮先輩は何を勘違いしたのか、

「はぁ、めんどくせぇな」

そう言い、自分のポケットから何かを取りだし私の手のひらにのせた。

「ん」
「?あ、カカオ100%」

手のひらに乗っていたのは先輩愛用チョコの小袋だった。先輩は決まりが悪いのか頭をがしがしとかいている。何だか可愛く見える。

「ありがとうございます、先輩。」
「うっせー。」

口に含んだチョコは、絶対苦いはずなのに仄かな甘さを残して溶けた。


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