夢見る少女じゃいられない


本当に好きなの。太陽みたいな笑顔も、何だか犬みたいに人懐っこい性格も、背が高いところも、ぜんぶ、好き。

きっかけは些細なことだった。テストで消しゴムを忘れちゃった私に「俺の半分あげるっスよ!」って自分の消しゴムを割ってくれた黄瀬君が輝いて見えたから。

叶わない恋だって分かってる。だって黄瀬君はモデルだし、ファンの女の子だって沢山いるから。でもせめて彼に好きな人ができるまでは、思っていたかったの。


「はぁ〜だる……」

2時間目の授業が終わると、黄瀬君はそう言って机になだれこんだ。

「昨日仕事だったの?」
「っス。だから眠くて…」

私が勇気を出して話し掛けた一言に黄瀬君が返してくれた!私はそれだけで顔がにやけてしまいそうだった。
ふあぁ、と今にも寝てしまいそうな彼を見てやっぱり好きだなぁなんて思う。

そんな時、教室の扉ががらりと開いた。

「涼!」
「あ!名前っちじゃないっスか!俺の教室まで来るなんて珍しいっスね。まさか、俺に会いたくて?!」

扉を開けた女の子が黄瀬君の名前を呼ぶと、黄瀬君は飛び起きて嬉しそうに寄っていった。私が話し掛けた時は、今にも寝そうだったのに、胸が少し、痛んだ。

「ばーか、違うからね?英語の教科書、貸して!」

「えぇ?またっすかぁ?」

「お願い!ほら、チョコあげるから!」

「仕方ないっスね。はい、どうぞ。」

「きゃーありがと!さっすが涼!次返しに来るから!」

女の子はそう言って去って行ったが、残された黄瀬君は「もー、ほんと、調子いいんスから」なんて言いながらも嬉しそうに女の子からもらったチョコを見ていた。

本当はずっと知ってたの。彼が誰を想っているのか、彼が唯一名前を呼ぶ女の子は誰か、そしてそれにどんな意味が込められているのか。全部知ってた。
ただ、認めるのが嫌で見ていないから分かんないなんて子供みたいな意地で、ずっと知らないふりをしてきたんだよ。

「黄瀬君、私にも、それくれないかな?今お腹空いちゃっててさ。」

でもね、

「あー悪いっスけど、」

目の前で見せつけられちゃ、

「これはあげられないっス。」

そんな意地、ただの惨めなものにしかならないんだよ。

「、そっか。ごめんね?」
「いや、別にいいっスよ。」

きっと彼は私の名前すら知らない。
彼に想われている、名前さん。私も一度でいいから、貴女になりたい。貴女みたいに、彼の太陽みたいな本物の笑顔で名前を呼ばれてみたかったなぁ。

さようなら、私の恋。思えばはじめから酷く、苦しいものだった。今はまだ無理だけど、でも、きっといつか、笑って話せるくらい幸せになるから、だから、もうしばらくは、想いを消すことができそうにない私を、見ないふりをして下さい。

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