sink,sink,sink



彼女の瞳はいつだって不安定に揺れていた。普段は明るい色で巧妙に隠されている、彼女に不似合いと言っていいほどのその瞳の色は、ふとした瞬間に現れる。

「ただ、不安なの。
別に特別何かがあるわけじゃないのに、不安なの。」

彼女はそう言うが、そう言いながらもやっぱり瞳はゆらゆらとしていて、まるで今にも壊れそうな天秤のようだ。

「心配かけちゃってる?和くんは良く気がつくから。」

人は不安定なものに惹かれると言うが、だからなのだろうか。

ありもしない、漠然とした恐怖に翻弄される彼女を抱き締めたいなんて思ったのは。

「じゃあさ、俺がその怖さ、半分貰ってあげるよ。したら少しは安心っしょ?」

俺のその言葉に彼女は少し目を見開いた。そして、その見開かれた猫目をゆるりと細め微笑みを浮かべた。

「ありがとう、和くん。」

俺の好きな彼女の笑った顔の筈なのに、何だか今にも融けて消えてしまいそうな彼女の存在を確かめるように抱き締めた。

抱き締めた体は思っていた以上に華奢で、なのに生きているんだと主張するように仄かに暖かい。俺は何故か胸が熱くなり、泣きそうになった。


抱き締める直前、こちらを見ていた彼女の双貌はやっぱりゆらゆらと揺れていた。

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