見えない約束


宮地先輩は卑怯だ。


ダムダムとバスケットボールが一つだけバウンドさせられている音が響く。それを見ながら私はそんなことを思った。チャラそうなくせにいつも誰よりも遅くまで練習してて、それなのに成績はいつも上位をキープしている。口はものすっっごく悪いけど、なんだかんだ面倒見いいし。何気に結構モテるし。
でもそりゃあそうだよね。バスケ真剣にやってる時の顔凄くかっこいいし。むしろ、何で私そんな人の彼女になれたんだろうか。きっと私よりずっと可愛くて性格がいい子で先輩が好きな子なんて山ほどいるのに。


「なにうなってんの?すげぇブスだぞ。」

悶々とそんなことを考えていると、そんなことを言われた。いつの間にか制服に着替えたらしい宮地先輩が目の前にいる。

「生まれつきこの顔ですうー。」

「何、今日生意気だな。」

先輩はそう言うと、私の両頬をむにーと伸ばす。

「おっ意外と伸びんなー」

「いひゃいっいひゃいれす!」

遠慮なく左右に引っ張られ、かなり自分の頬が引き延ばされているのが分かる。

「で、何拗ねてんの。」

「、別に拗ねてなんかいません。」

「じゃあ、何?どったの?」

「だから別に!」

「これ以上誤魔化すとパイナップル投げんぞ。」

何故パイナップル…なんて突っ込みたかったけど、先輩の顔が本気だったので私は渋々口を開いた。面倒な女だと思われそうで少し、怖い。


「……先輩は、頭も運動神経も良くて、かっこいいのにどうして私なんか選んでくれたんだろ、って……」

怖くて、顔があげられなくて俯いていると何だか涙まで滲んできた。

「私より性格も顔も良くて、先輩のこと好きな女の子も、いっぱい、いるのに…。」

ヤバい、自分で言っててへこむ。はぁ、と先輩のため息が聞こえた。やっぱり面倒な女だと思われたのかな。

「お前、ほんっっと馬鹿だな。俺はお前だからす、好きなんだ!顔とか関係ねぇし。勝手に不安になってんな。」

ふわりと頭に先輩の手が乗せられ、くしゃくしゃと撫でられる。

「で、でも…」

「でもも何でもねーよ。俺本人がこう言ってんだから、間違えねぇだろ。」

「う、…」

「、まぁ俺が口に出さなかったせいでもあんだろうけど。
ちゃんと、名前のこと好きだから。」

柔らかい笑顔が私に向けられる。こんな笑顔、緑間君や高尾君が見たら卒倒するんじゃないだろうか、なんて考える。

「まぁ、それでも不安だっつーなら、」

先輩の大きな手が、私の手をとった。

がりっ

「っ?!」

「予約しといてやっから。だからお前は安心して俺の隣に立ってろ!」

そう言ってもう一度私の頭を撫でた先輩が噛みついたのは私の左手の、薬指。

「ほら、もう帰んぞ。」

私は差し出された先輩の手に指を絡めながら、何だかさっきまでの自分が馬鹿みたいに思えてきて、ふふっと笑った。

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