微睡む思考


かたん、と誰かが玄関のドアを開けた音がした。私はうとうととしていた思考を無理矢理覚醒させ、頭を持ち上げた。

「いらっしゃい、持田さん。」

「なに、寝惚けてんの?」

今日の朝届いた「今日家行くから」と時間も何も書かれていないメールの為に、律儀に起きていた私に玄関から入ってきた彼はまずそう言った。

「ん、たぶん、起きてる、ます…。」

「完全に寝惚けてるよな。俺より先に寝ようとするなんていい度胸じゃん。」

いまいちはっきりしない思考でも彼の暴君のごとき笑顔に危険信号が点滅したのがわかった。

「っいだだだだだ!」

「はは、色気ねーな。」

しかし、時は遅く。彼の両手によって私の頬はあり得ないくらい引き延ばされた。

「で、何か言うことは?」

「痛い…」

「は?何、もう一回?」

「っ先に寝て申し訳ありませんでした!」

私のその言葉に当然だろとでも言うように頷く持田さん。持田さんまじ王様。

「でもせめて時間ぐらい教えてくれてても良かったんじゃ…」

そう、今は1時なのだ。もちろん深夜の。メールには今日、とついていたくせに正確には明日である。

「何、来られちゃまずい時でもあんの?」

「どうやったらそんな思考に繋がるんですか。違いますよ。ただ、ろくに買い物も行けないから。」

「ふーん。」

自分のことなのにまるで無関心だ。この暴君め…と心の中で悪態をついてみる。もちろん口には出さない。

「……ま、いっかそれでも。」

「何がですか?」

「名前さぁ、うちおいでよ。」

「は?」

「だからうちに住めっつってんの。そしたら問題ねーじゃん。」

「え、いやいやいやいや!貴方自分の立場分かってます?!日本代表のエースがこんな女と同棲してるなんて知れたら…っ」

「別に大丈夫だろ。つかいい機会だからいっそ結婚するか。」

「………はぁ?ちょっ持田さん、」

どんどん進む話に頭がついていかない。え?結婚?誰と?持田さんと。

「それ」

「?」

「名前呼べよ。お前ももう持田なんだから。」

それでも目の前でニヒルに笑う王様に、彼との将来を見ちゃった私はきっともう彼の暴君っぷりに毒されているのだ。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -