誰か夢だと言ってくれ!


その風に揺られてさらさらと舞うハニーイエローの髪が、綺麗だと思ったんだ。



(誰応援しにきてんだろ。)
いつも体育館の2階から練習を見ている女の子に俺は恋をしている。
もちろん今日も例外なく彼女はそこにいるから俺は部活中だけどついそちらを見てしまう。

「(あー名前だけでも…)いだっ?!」
「高尾ォ、よそ見なんて随分余裕だな?あぁ?」
「はは…、宮地サン、」

しかし、それが悪かったのか。
ぼーっとしていた俺の頭にバスケットボールが思いっきり当たる。
振り向くと笑顔でキレてる宮地さんがいた。

「はっはーお前、今度気抜いてたら、轢くぞ?」
「すっすんません!」

俺はすぐさま背筋をぴしっと伸ばし、慌てて謝った。

「馬鹿かお前は。」

そして、怒られないように再び足を動かしていると、真ちゃんが呆れたようにこちらを見ていた。

「真ちゃん相変わらずひでー。せめて慰めるとかさぁ、」

俺は適当に返事を返しながらも、こりずにちらりとあの女の子を見る。

「っ」ばちり、と目が合う。
すると、にこりと女の子が微笑んだ。


「(っ!今、俺に笑いかけた、よな?)」

俺に向けられた彼女の笑顔に、先ほどの宮地さんの恐怖なんて一気に吹き飛び、テンションが最高潮まで上がった俺は、いつもより気合いを入れてその後の部活を乗りきった。


「あー疲れたー。なぁ、真ちゃーん。帰りどっか寄らね?」
「は?お前、さっきといい随分余裕があんな?」

真ちゃんに話かけた筈が、返ってきたのは不機嫌な声だった。

「み、宮地サン…」

今日は悉く宮地さんに睨まれる日かもしれない。真ちゃんは呆れたように後ろでため息を吐いている。

「え、あれ、じ、自主練は…?」
「んだよ?」
「(こっえー!)や、いつもしてるんで、今日はしないのかな、なんて…はは。」
「今日は「清志!」
あ?お前、呼び捨てにすんな!」

宮地さんが口を開いた瞬間、女の子の声がした。

「!」

あの体育館の女の子だ。

「あは、ごめーん清志!あ、」
「おまっ実は反省してねーだろ?!」
「してるよ!凄くしてる!うん、たぶん!」
「轢く!お前ぜってー轢くかんな!」

目の前で二人の仲の良さそうなやり取りを目の当たりにする。

「は、はは。(終わった、俺の恋…)」

恐らくカップルであろう二人に渇いた笑いしかでない。

「あ!」

そこで、女の子が俺を見て声を上げた。

「さっき清志に怒られてた人だ!大丈夫だった?清志手加減とか知らないから…。」
「や、全然!」

人の彼女とは分かっていても、好きな子に心配そうに覗き込まれると、少し照れてしまう。

「ほんと?良かった。」
「(ちくしょーやっぱかわいー…)」

と、そこであの男がしでかした。

「二人はどんな関係なのだよ。」
「(直接聞いたら俺立ち直れねーよ…。恨むぜ、真ちゃん。)」

空気の読めない男、緑間真太郎。ここでもそれはいかんなく発揮されている。

「え?あぁ、私名乗ってなかった!ごめんね?
改めまして、私、1年の宮地名前です。」
「え?(み、やじって…)」

絶望のどん底の俺に、微かな希望が射し込んだ。

「いつも兄がお世話になってます。」
「な、兄妹?!」

真ちゃんが驚きの声をあげる。俺の拳は無意識にガッツポーズを握る。

「ちげーよ、いつも俺が世話してやってんの。」
「っ俺、高尾和成!よろしくね、宮地さん!」
「よろしく!あ、ややこしいから名前でいいよ?」
こてん、と首を傾げる彼女は殺人級に可愛い。

「(きたぁ!これ、俺の時代がきた…!)じゃあ、名前ちゃんで!
あ、俺も名前で「高尾ォ!」…げ。」

名前呼びの許可までもらいどうせなら俺の名前も、といいかけたところで、肩に宮地さん(兄)の腕が回る。

「お前俺の妹に手ぇ出したら、轢く、いや殺す」
「ひっ!」
「緑間ァ!お前も分かってんなぁ?」
「あああ、当たり前なのだよっ」
「(はは、まさかのシスコンとか……俺死ぬんじゃね?)」

でも鬼のような宮地さんの後ろで首を傾げる名前ちゃんはやっぱり可愛かった。

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