知らない慕情


「んふふー。」

「何笑ってるんだ気持ち悪い。」

不意に私が笑いだすと偶然隣にいた三成様が怪訝そうな顔で見てきた。

「相変わらず酷いですねー。もてませんよー?」

「貴様の話し方は相変わらず私を苛々させるな。それに女になど興味はない。」

秀吉様にこの身を捧げている私には不要な物だ、と言わんばかりである。
ああ言えばこう言うというのはまさしくこの事じゃないだろうか。

「あら、旦那様は相も変わらず手厳しいことで。私にも無関心と言うことでしょうか。」

「その気持ちの悪い話し方とわざとらしい動作はやめろ。虫酸が走る。」

わざとらしく、よよよ、と崩れて見せるとまた文句を付けられた。少し、本音も交じっているのだけれど。

「もー、じゃあどうしろって言うんですかー?」

「そこで黙っていろ。私は忙しい。」

忙しいと言いながらも私の相手をしてくれていた辺り、嫌われてはないと思う。

けれど、私にはこのお方に輿入れをした時から疑問がある。私は確かに武家の娘だが、三成様と婚姻できるほど地位も高くなければ、財力があるわけでもない。

なのに、気づけば私はあれよあれよと言う間にこの方と夫婦になっていた。

けれどだからといって抱かれるわけでもなければ、たまに部屋にやって来てくれるので形だけの物として置かれているわけでも無さそうだ。
そして彼は側室もとらない。

「…(ほんと、分かんない人。)」

彼のすこし紫がかった綺麗な銀髪を眺めながらそんなことを考えていると、彼がふとこちらを見た。

「…何だ。」

「あ、いや、その…別に。」

正面から見つめられるとあまりに真っ直ぐな瞳に言葉につまる。

「先ほどから穴が開くほど見つめておいて何もないことはないだろう。」

この人は嘘にはすぐ騙されるくせに変に勘がいいから困る。

「、どうして三成様は私なんかを正室にしたのかな、と…。」

私が恐る恐る口にすると、三成様はすぐに言葉を発した。

「知らん。」

「…は?」

私がここに来てからずっと悩んできたことをたった3文字で終わらせやがった、こいつ!

「………ただ、」

しかし、まだ何か言いたげである。

「ただ?」

「置いておきたくなったのだ。この城に。」
「………。」


「刑部に話があるから少し席を外す。」

そう言って三成様はこの部屋を出ていった。

「っ〜〜〜!」

顔が徐々に赤くなるのが分かる。あんなの、ずるい。




けれど、鏡に映った私の顔は真っ赤でとても嬉しそうだった。

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