呼吸を忘れた深海魚


「ねぇ、赤司。」
「なんだ。」
「勝った時ってどんな気分?」
「別に普通だ。当たり前のことなんだから。」

そんな会話をしたのは3年に上がる直前だった。

そして、バスケ部がまだ部活らしく皆が楽しそうだった頃だった。



「青峰とさつきは桐皇で、涼ちゃんは海常で、ミドリンは秀徳、むーくんは秋田で、…てっちゃんは、分かんない。」

赤司は何の反応も示さない。

「みーんなばらばらだねぇ。」

3年間一緒だったのに、最後の1年のせいで全てが崩れてしまった。

試合の度に、勝ったはずなのに苦しかった。そこに笑顔なんて、なかったから。
1人1人が自分の力だけを信じていて、確かに力は圧倒的だったけど、大切な何かが欠けていた。そこにチームなんて存在していなかった。

「お前はどこに行くんだ、」

私が黙っていると今度は赤司が口を開いた。

「私はねー、どこだろ?決めてない。」

ほんとは皆と同じところに行って皆で全国制覇して笑いあいたかったけど、そんなの、もう、不可能だ。

「ねぇ、赤司はさ、苦しくないの?」

勝って当たり前で、そこには笑顔もなくて、悔しさもない。ただ勝利だけを求めて、勝利こそが正義だと、そういう世界で。


「苦しくなんかないな。」

そんな筈、ないよ。ねぇ、赤司。そこはただ暗くて冷たいよ。廻りには誰もいなくて、ただただ悲しいよ。

「進路が決まってないなら――…いや、何でもない。」

何かをいいかけて赤司は口をつぐんだ。そして、用事があるからと教室を出ていった。
その背中は、何故かとても大きくて、淋しかった。

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