がんじがらめの猫


「光、」

私がそう呼ぶと財前はいつも嬉しさと悲しさが入り交じった複雑そうな顔をする。

「名前、」

「どうしたの?」

財前は実のところとても弱い。普段はその弱さを毒舌や不機嫌さで何重にも覆い決して誰にも悟らせない。

けれど、私はたまたま財前のその隠した弱さを知ってしまった。

それから財前は私にだけ弱さを露呈し甘える。そして、私に拒絶されるのを酷く恐れている。
だから私が彼の名前を呼ぶ度に彼は拒絶されていないという安心と、未来への不安を顕にするのだ。

「名前、俺から離れんとって、嫌いにならんとって。」

ありもしない不安に襲われている彼を抱き締めた。

「光、私は離れないし、嫌いになんて絶対ならないよ。」

こんなに触れただけで壊れてしまいそうな彼を拒絶なんて、できない。

「、好きや、愛しとる。やから俺以外なんか見んで。」

背中に回された腕の力が強くなる。彼の愛情表現はいつだって、痛い。

「見ないよ、見ない。だから安心して。」

「、でも、そんでも俺不安なんや。やから…」

財前は私の首もとに埋めていた顔を上げて自分のピアスを私の耳に、押し付けた。

「いっ?!」

「ごめん、…せやけど俺のや、って印が欲しい。消えへん痕が、欲しいんや。」

ぐりぐりと耳たぶに何かが入る。じくじくと耳が痛み、熱を持つ。

「これで、ほんまに俺のや。」

財前は私の血をぺろりと舐め、犯しそうに、笑った。

(あぁ、逃げられない)

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