食べられた吐息


「ん、」

ぱちりと目を開くと、何だか変にはっきりと頭が覚醒する。外はまだ薄暗いようで、時計を見るとまだ6時前だった。朝御飯を作るのにはまだ少し早いな、と考えながら隣にいる大好きな人の顔を眺める。

いつも私より早く起きるこの人の寝顔を見るなんてレアだ。

「(昨日試合だったから疲れてるのかな。)」

少したれ目がちな目は今は閉じられていて、普段の飄々とした雰囲気とは違い、今はどこかあどけない。今さらだけど、私この人と結婚したんだよね…。
もう籍を入れて1ヶ月たつのに、いまだに少し夢みたいだ。サッカー一筋で無口なこの人が「結婚してくれ」と告げてきたときは思わず自分の頬をつねったけれど、今でもたまに自分の頬をつねってみたくなる。

「堺さん、すき、」

彼の寝顔を眺めながらついそんなことを口に出すと、いきなり腕を掴まれて引き寄せられた。

「お前も、もう"堺さん"だろ。」
「え、さっ堺さん?!おおおおお起きて?!」

目を開けてに意地悪く笑う堺さんの顔が間近にあって、今のを聞かれていたことに顔が赤くなる。

「あんだけ熱い視線送られりゃ誰でも起きんだろ。また、"堺さん"だしよ。」
「うぅ…」

もうダメだ。恥ずかし過ぎて死ねる。枕に顔を埋めてしまいたいのに、そんな私の行動はお見通しなのか、彼の手に見事に阻まれる。

「"堺さん、すき、"なんて自分に言ったのか?」

仕方なく顔をあげれば、にやりそんな効果音がつきそうな笑顔の堺さんが目に入る。

「ぅ、あ…その、良則さんに…。」

言いました、なんて後に続くはずだった蚊の鳴くような声は良則さんにのみ込まれた。

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