十字架に沈む天使 「名前、」 赤司くんの少しだけ幼さを残したような声が私の名前を呼ぶ。きっと彼はあの怖いくらいに真っ直ぐな瞳でこちらを見ているのだろう。 「こっちにこい。」 けれど、目を合わせてはいけない。だってその瞬間から彼に囚われてしまうから。 * そもそも私と赤司くんはただ席が隣なだけのクラスメイトだった。 ある日たまたま私が1人で教室に残っていたとき、赤司くんが現れなんとも一方的に「君は、今日から俺のだ。」と告げて、私の唇をふさいだ。 私はいきなりのことに頭が回らず、ただ感じる違和感に苛まれていた。 それからというもの、何故か私が赤司くんと付き合っているという噂が流れ、何だか赤司くんとはよくわからない関係が続いていた。 そんな状況の中の今だ。 「名前、俺から離れるなんて赦さない。」 顎を持ち上げられ、視線がかち合う。彼のアンバランスな瞳に私が映りこむ。まるで彼の中に捕らわれてしまったみたいだ。そんなことを考えていると、唇が以前のように彼のそれによって塞がれる。 「(あぁ、一人称がボクじゃないからだ。)」 まるで他人事のように頭が違和感の原因を導き出した。唇に感じる熱は、不思議と嫌なものではない。 「ふ、はぁ、」 「は、…赤司、く」 離されたそれに、空気を肺に取り込みながら彼の名前を呼べば、合わされる視線。 「言え。もう自分がどうするべきか理解しているだろう?」 彼の真剣な瞳が私を貫く。 あぁ、何だ。簡単なことじゃないか。気づかないふりをしていただけで私は―――… 「征十郎、好き、」 はじめて会った瞬間から彼の瞳に囚われていたんだ。 私がそう言うと、征十郎は当たり前だとでも言うように笑って、もう一度私の唇を塞いだ。 |