臆病者と蔑んで
あの日、結局ブンちゃんはあれから何も言わなかった。ただらしくなく何だか無理やり笑っていたから、だからそれ以上聞くなんてできんかった。
付き合いは長いくせに、こういう時俺はどうすることも出来ない。ブンちゃんに教えてくれと懇願することも、彼の忠告を素直に聞き入れることも。
成長するにつれて無駄に高くなったプライドがそのどちらも酷く難しいことにさせた。
プライドだけが高く高く反り上がり、それに伴う筈の自信や中身はとても希薄だというのに。
「仁王くん?」
「、なんじゃ?」
「何だか今日ぼうっとしてるね。」
今日は日差しが気持ちいいから眠いのかな?
そう言って首を少し傾げた百合の肩から綺麗な黒が更々とこぼれた。そしてそのまま彼女自身までもほどけていってしまいそうだ。
「…おん、そうかもしれんの。」
「この日差しは反則だよね。」
「そうじゃのう。」
「ふふ、こんなに気持ちいいと授業受ける気にならないよねぇ。」
「だからサボってるんじゃろう。」
「あはは、そうだよね!」
「のう、百合」
「ん?なあに?」
もし、俺が今口に出そうとしている言葉を口に出してしまえば、この笑顔はもう俺には向けられないのかもしれない。
そうすれば今迄みたいに屋上でこんなふうに会話を交わすことも、無くなる。
「どうしたの?」
自分から話しかけたくせに口をつぐんだ俺を不思議そうに首をかしげる。
「…、来週の小テストって教科なんだったかの?」
「英語だよ。嫌だよねテスト。」
喉まででかかった言葉は、口から出ると全く違う言葉へと姿を変えた。
今まで遊んでばかりいたせいか、こういう時どう切り出せばいいのか分からん。
………いや、そんなんただの言い訳じゃ。ただどうしようもなく、俺が臆病なだけなんだから。