君に触れさせて
あれからも度々屋上で会い、たわいもない話をした。チョコレートは好きだけどココアは飲めないだとか、今日の占いが何位だったとか、本当にどうでもいいようなことを、沢山。
俺はそれでもまだ彼女を知りたい、とまだまだ彼女と居たい、と思っている自分に気付いてしまったから。
遊んでやろうと、軽い気持ちで近づいたら逆にオトされてるんだから笑えん話じゃ。
この時にはもう、最初にブンちゃんが何故か焦っていた理由だとか幸村のあの願いだとかは既に頭にはなかった。
どうして思い出さなかったんだと後悔してももう、何もかもが遅い。後から悔いる、つまりどうあがいたってもう戻れはしないのだ。
「仁王、お前最近よくサボるけど単位大丈夫なのかよい。」
「なんじゃ、ブンちゃん。授業中に俺がいなくて寂しいんか?」
「あほか。」
「冗談じゃ、冗談。
ちゃあんと計算しとるからへーきなり。」
「ふーん。ま、ならいいけどよい」
で、それよりさ、
とブンちゃんは続ける。なんじゃ、本題はそっちか。伺うような目で見てくるので、続きを促す。
「ほら、前白雪オトすとか言ってただろい?」
「、おん」
いきなり出てきた名前に少し声に動揺が表れてしまった。
「あれさ、どうなってんの?」
「…どうなってるってどういうことじゃ?」
ブンちゃんの久しぶりに面と向かって見る真剣な顔に、以前の幸村の言葉もフラッシュバックする。
「お前さ、いつもみたいな遊びとか面白半分ならやめとけ。」
「幸村にも言われたんじゃが、どういうことじゃ?」
「あー…やっぱり幸村くんもか。」
何だか微妙な顔をしながらガシガシと頭を掻くブンちゃん。
「仁王、これはよ、軽い気持ちで聞いていいことじゃねぇんだ。」
、いつの間にブンちゃんはこんな表情をできるようになったんだろうか。
でも――…
「もしかして、本気なのか?」
こくり、と頷く。
「、そっか。お前も本気になれる女に出会えたんだな。」
ブンちゃんは笑うが、全然祝福の念は含まれていない。
「…………けど、今回ばかりはやめとけ。きっとこれから本気になれる奴が現れるからさ、百合のことは忘れろ。それが、1番いい。」
お前にとっても、あいつにとっても。