散らばる破片
それにしてもあの言葉はどういう意味なんじゃ。綺麗でいたい、という言葉はまだ分かる。白雪ほど美しければ、それを過大評価も過小評価もなく自覚していてもおかしくはないから。
でも
“いなくちゃいけないから”
彼女はそう言い直した。まるで、そうでなければならないと、あたかも義務であるかのように。
白雪にはきっと何かがあると、頭にこびりついたあの瞳が俺に何かを告げる。そして俺はそれを、彼女のあの瞳の奥に隠れる何かを、心底知りたいと思ってしまった。
「―う…―おう、仁王!」
「…なんじゃ?」
「今日は注意力散漫すぎるよ。後輩に示しがつかないよ。
外周走って頭冷やしておいで。」
「…行ってくるなり。」
しまった。部活中にこんなことを考えるなんて本当にらしくないなり。頭を少し冷やす必要がありそうじゃの。
「仁王、」
「なんじゃ、幸村。」
「何かあったのかい?」
真剣な顔で幸村がそう聞いてきた。そんなに今日の自分は変だっただろうか。
「別になにもなか」
「…そう。」
幸村は何だか変な表情を作ったがそう言った。
「仁王先輩!」
「なんじゃ、赤也」
するといやにハイテンションな赤也が寄ってきた。
「白雪、どうなりました?」
期待でいっぱいといった様子の赤也の顔をぺしんと叩いた。
「さすがにガード固かったなり。」
「マジっすか?仁王先輩でもだめなんて白雪すげー!」
まぁ諦める気はないがの、なんて言葉は何故か飲み込んだ。
「…仁王。」
「なんじゃ?」
「白雪ってA組の?」
「おん、ブンちゃんが確かそう言っとったのう。」
「……………」
「どうかしたんか。」
「仁王、いつもの遊びなら止めておいてくれないかな。」
「……なんでじゃ?」
「なんででも、だよ。これは友人としてのお願いだ。軽い気持ちなら下手に彼女に手を出さないでくれ。」
「、」
試合のときかそれ以上に真剣な幸村の顔に驚く。
「手を出さないでって言われても、もうフラれてしもうたからのう。どうしようもないぜよ。」
俺のその言葉に少し幸村の表情が緩んだ。
「…そう。ならいいよ。」
幸村にここまで想わせるなんて、白雪ってほんま何者なんじゃ。未だに幸村は少し怪訝な表情じゃ。やけど悪い、幸村。久しぶりにちょっとマジなんじゃ。おまんの頼みは聞けそうにないかも知れん。