囚われの自由の女神
「待たせたかの?」
とりあえずセオリー通りに白雪とやらを呼び出した。俺に背を向けていた女が振り向く。何故か俺にはそれがスローモーションに見えた。
「ううん、大丈夫。」
太陽に照らされた肌は透けてしまいそうに白く、それなのに唇は熟れた林檎のようだ。
烏の濡れ羽のようなその黒髪が女の魅力を引き立てていた。
「(確かに、白雪姫みたいじゃ。)」
つい俺は見惚れてしまっていた。
「どうしたの?」
いつも俺に寄ってくる女達のように計算された上目遣いとは真逆の、純粋に疑問を表すその動作すらも絵画のようで。
「っ、」
けど、見惚れてしまったなんて俺の変なプライドが許さなくて、慌てて表情を作る。
「俺と付き合わんか?」
ゆるりと妖艶に笑い、甘い声音でそう告げた。返ってくる言葉はきっと…
「ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど…」
しかし戸惑ったような顔と共に返された返事は予想外、じゃった。まさか断られるなんて。一瞬思考が停止するが僅かに残った思考が問い詰めるなんてダサい真似を許さなかった。が、つい疑問を弾き出した。
「……なんでじゃ?」
しかしそんな俺にも白雪は申し訳なさそうに笑って言う。…こういう状況に慣れてるんじゃろうか。
「別に仁王くんがどうってわけじゃないの。貴方はとても魅力的な人だと思うわ。」
名前、知ってたんか。
「じゃあ、なんでじゃ?」
「私が、駄目なの。綺麗なままでいたいの。ううん、いなくちゃいけないから。だから、例え誰が私を好きだと言ってくれても、駄目。」
かちりとあった瞳は力強く、悲しく、そして、なにより綺麗じゃった。
それじゃあ教室に戻るね、と言って去っていった白雪を止められなかったのも、その瞳のせいじゃったのかも知れん。