未来なんてない | ナノ
僕と、君と、未来

2限目が終わった休み時間、俺は百合がいるだろう屋上の扉の前に来ていた。1つ深呼吸をして、俺は、ドアノブを回した。


ザァっと風の音がして、視界にあの艶やかな黒が舞う。その持ち主はこちらにあの頼りない背を向けたまま。

なぁ、お前さんは今何を考えちょる?

「百合、」
「……何?」
「俺は…、」

何て言えばいい?昨日さんざん悩んで考えた言葉なんて、今の彼女にはきっと響かないだろうなんて本能的に感じた。言葉につまる俺とは対照的に百合は口を開いた。

「私ね、ずっと、考えてたの。」
「、何を?」
「ねぇ、仁王くん、人ってね、声から忘れていくんだって。大切な人の自分を呼ぶ声から、思い出せなくなるんだって。」

そこで漸く百合はこちらを振り替える。ぞっとするほど、完璧な笑顔を携えている。

「私にはそんなの、耐えられない。……だからね、思ったの。」

嫌な予感がする。彼女が手に握っているのは何?

「会いに行こうって。」
「、それ、って」
「多分叱られちゃうだろうけどね、忘れるより、まし。」
「っやめろ!会えるわけない!死んだらそこで終わりじゃっ!」
「……私のこと、想ってくれて、ありがとう。」

パリン、と瓶の割れる音が屋上に響いた。























さくり、さくりと草を踏む音がする。その音は迷いなく進み、ある場所で止まった。

「……。」

その足音の持ち主の眼前に広がるのは、鮮やかな姫百合の花畑。そしてその中心にある石へと、その男は再び歩を進めた。

まるで石碑のようなその石を男がそっと撫でると、ザァっと強い風が吹きオレンジの花びらが中へと舞い上がった。それが脳内の記憶とダブって、男は静かに、泣いた。
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