救えなかった僕
「仁王、ちょっといい?」
部活が終わり、部室で着替えていると幸村がそう声をかけてきた。幸村が部活後に俺に話し掛けてくるなんて珍しい。
「おん、いいぜよ。」
そう返事をすれば幸村は俺をコートの隅へと呼んだ。
「本当に、凄く情けない話なんだけど、」
幸村が眉尻を下げて本当に情けないという顔を見せる。いつでも部長として自信に溢れ、人の上に立っている幸村とはまるで別人のようだ。俺も真剣に耳を傾けた。
「あいつを、…百合を助けてやってほしいんだ。」
「、」
思ってもみなかった話題に返事に詰まる。こう言われてみれば、確かに幸村は最初に俺に百合に手を出すなと忠告してきていた。…百合とはどんな関係なのだろうか。
「幼馴染みなんだ。まぁ俺は妹みたいに思ってるんだけど。」
「そう、じゃったんか。」
「うん。だから、あいつが居なくなってからの百合は見てられなかった。」
幸村の顔が切な気に歪む。百合を好きになってから、自分がいかに皆を知らなかったのか思い知らされる。
「あいつは今、自分の中の感情が入り交じって、何もかもが分からなくなってる。」
「、」
「今の百合には何をするかわからない不安定さがあるんだ。」
「……。」
「きっと、明日は屋上にいると思う。」
幸村はそこで一度言葉をきって、真っ直ぐに俺を見た。相変わらず、こいつは強い。
「だから、助けてやってほしい。俺じゃもう無理なんだ。でも、お前なら、百合の心を動かしたお前なら、救える気がするんだ。」
「幸村…、」
「だから、頼むよ。仁王、あいつに、百合に前に進む勇気を、取り戻させてくれ…っ」
なぁ、百合。お前さんはこんなに人に思われているってちゃんと知っとるか?