君の消える温度
「百合?珍しいね、こんなところでいるなんて。」
「精市、」
私が花壇の前で花を眺めていると精市が話しかけてきた。
「なにかあった?」
「…ふふ、精市にはお見通しなのかなぁ、」
心配そうな彼の顔は昔から変わっていなくてつい笑ってしまう。
「仁王くんをね、傷付けちゃった。」
彼と同じあの真っ直ぐな瞳を、揺らがせてしまった。傷付けて、しまった。今まで何人も傷付けてきたはずなのに、何故こんなにめ胸が痛むのか。
「…百合、いい加減自分を許してやってよ。」
「精、市」
「奏哉はこんなお前を望んでたんじゃないよ。」
「…っ」
「あいつは、お前の笑顔が「っやめて!」…百合、」
「私が奏哉を殺したようなものなんだよ?私があんな男に目さえつけられなければっ奏哉は今でも…っ!」
「………、」
感情的になって叫ぶ私に、精市が顔を悲しそうに歪めたのがわかったけど一度吐き出し始めた感情は止まりそうにない。
「それなのに、私だけ、笑うなんて、笑って生きていくなんて、できないよ…」
私さえいなければ、優しくて暖かいあの人は今でも生きていたのに。
それなのに、私が彼から何もかもを奪った。1番愛する人を、私が私自身が、殺したんだから。
今でも、あの時の彼の体温が鮮明に蘇る。段々と冷たくなっていく、あの生々しい感覚が、…私が彼を殺していく感覚が、蘇るのだ。
「…百合、それでも、俺は、お前に幸せになって欲しいよ。………きっと奏哉もそう思ってる。
それだけは忘れないで欲しい。」
精市は悲しそうな顔のまま私にそう言った。
本当は何故胸が痛むのか。その理由には薄々勘づいていたの。けど、それを考えてしまえば、どうにかなってしまいそうで、…決意が壊れてしまいそうで。
その感情と向き合うのが怖くて怖くて、目を背けた。