未来なんてない | ナノ
幻影を抱き締める

今年も立海の中庭の片隅に姫百合が、咲いている。その鮮やかなオレンジは、どうしても彼のあの笑顔や言葉を思い出させて。

どうしようもなく会いたくなる。あの澄んだ瞳に私を映して、少し体温の低い、それでもがっしりとした彼に、大丈夫だよと抱き締めてほしい。

彼の声が好きだった。
彼の笑顔が好きだった。
彼の優しさが好きだった。
彼の弱さが好きだった。

でも、それでも彼を愛してたわけじゃない。ただ、彼が存在していることが、何よりも愛しかった。

もし、会いに行けば貴方は怒る?それともいつもみたいにしょうがないなぁって呆れたように笑うのかな?

仁王君は、どことなく貴方に似てる。どこか寂しがりやなところとか、少し気だるげなところとか、……私に真っ直ぐな感情を向けてくれるところとか。

「奏哉、…ずっと、今でもまだ、奏哉を探しちゃうの。」

もう何処にもいないことくらい分かってる。でも、無意識に貴方に似てる後ろ姿や声や仕草を未だに求めてる。

「どうすれば、いい?」

“強いからこそ美しい”そんな意味を持つ美しい姫百合は、貴方が1番私に似合うと言ってくれたけど、私は、未だに弱いまま。貴方の隣から動けずにいる。

「ねぇ、お願いだから、馬鹿だって、いつまでもうじうじしてんなって、叱ってよ…っ
怒ったって、何したっていいから、だから……っ傍に、いてよぉ……」


貴方のいない世界じゃ上手く笑えない、呼吸だって出来ないの。ただ1人、貴方がいないだけで私はこんなにも、弱い。

ねぇ、奏哉、
もし、会いに行けば、また抱き締めてくれるのかな。おかしくなりそうなくらい、哀してる。
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