未来なんてない | ナノ
垣間見えた、心

しゃらり、と携帯のストラップが揺れた。

「なんちゅう花なんじゃ?」

そのストラップには鮮やかなオレンジが切り取られていた。

「、姫百合だよ。夏に咲く、鮮やかな花。」

「姫百合、綺麗な花じゃな。」

彼女のことをまた少し知れた、そんな感情が沸き上がる。花、好きなんじゃろうか。

「花詳しいんか?」

「そうでも無いけどね、似合うって言われた花だから、すき。」

誰に、言われた?
やっぱり肝心の言葉は発せないまま。

「姫百合なんて、可愛らしい名前なり。」

「ふふ、だよね。私に似合うなんて勿体ない。」

そう言う彼女だが、姫百合という鮮やかで可憐な花は彼女にきっと誰より似合う。

「似合っちょるぜよ。」

「え?」

「似合っちょる。鮮やかで可憐な姫百合はお前さんに。」

俺のその言葉に彼女は目を見開いて少し固まったあと、泣きそうな顔で笑った。

「――そう、思う?」

「、おん。」

「同じことを言うね。こんな私にこの花が似合う、なんてそんなわけ、無いのにな…、」

今すぐ、その頼りなさげな肩を掻き抱いてしまいたい。そんな悲しい顔をするなと、泣きたいなら泣いてしまえと、そう言ってやりたい。


「なぁんてね、似合うって言って貰えてお世辞でも嬉しかったよ!」

なぁ、何でいつも隠すんじゃ?少しはお前を知れたと思ってるのは、俺の自意識過剰か?一体いつになれば、お前は俺に本当の感情を見せてくれる?

人を好きになることが、こんなに苦しいことだなんて知らなかった。
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