見えない鎖
最悪だ。
「あの、西宮さん、…好きです!付き合ってください!」
何が楽しくて好きな女が告白されているのを眺めなくちゃならんのじゃ。告白なんてよそでやれよそで。
まぁ、そうは思うがやっぱり気になるものは気になる。つい生唾をごくりと呑み込む。
なぁ、おまんはなんて答えるんじゃ?
「気持ちはとても嬉しい。ありがとう。……でも、ごめんなさい。私は貴方の気持ちには答えられない。」
「っなんで?!彼氏がいるのか?!」
「、いないよ。」
無様に取り乱す男に、無性に腹がたった。彼女に、あんな顔は似合わない。
「じゃあ、どうして?!」
「……ここまで私なんかを好きになってくれて、とても嬉しいよ。でもね、そういう問題じゃないの。だから、ごめんなさい。」
まただ。彼女は美しく、悲しく、それでも確実に、その美貌で他を拒絶する。あんな風に微笑まれては、きっとあの男もどうしようもないだろう。美しさとは、時に残酷だ。
「覗きなんて趣味悪いよ、仁王君」
「なんじゃ、気づいとったんか。」
その尻尾が見えたから。
そう返事をする彼女は既にいつもの彼女だ。こうもいつも通りなのは、彼女が感情を隠すのがうまいからなのか、それとも―――…
「誰か、好いとう奴、がおるんか?」
たまに切な気に細められるその美しい相貌の先に、絶対的な誰かがいるからだろうか。
言葉として形にしてしまった俺にはもう後戻りは、できない。
「俺はほんまに、おまんが好きじゃ。自分でも信じられんくらい。」
「……」
「でも、…おまんは誰にも心を見せんじゃろ?いつも上手い具合にすり抜けていく。」
一度形になりだした言葉はとどまることを知らず、まるで堰をきったかのように溢れ出す。
「悲しみも、切なさも、常に全部全部笑顔でくるんで、見えなくしとる。
のう、百合。……いい加減、少しはおまんに触れさせてくれ…」
それでも最後に出た言葉は酷く、弱々しいものだった。