逃げ出せないラプンツェル
さわり、と柔らかな風が少女の黒髪を撫でる。少女は片手で髪を押さえ、眩しそうに目を細める。
「、」
すとん、とある場所に座り込んだ少女の顔はどんな感情を映しているのか。
白い指先が鮮やかな橙の花を撫でる。花の名前は姫百合。彼が種を蒔いて沢山咲いたこの花をプレゼントしてくれた、この場所。沢山の姫百合が風に揺れる。
「最近友達が増えたの。テニス部の男の子で、すごく格好いいんだよ?
よく屋上で一緒にサボって――…あ、怒られちゃうかな?でも、凄く優しいんだよ。」
独り言のようでいて、誰かに話しかけてもいるようで。
「精市もよく遊びに来てくれるし、丸井君はたまに飴くれるんだよ。」
微笑みを浮かべている筈の表情が悲しみを帯びると、歪に歪む。それでも、少女は、美しい。
「ねぇ、私さ、やっぱり無理かもしれない。――――会いたいよ…会いたい……」
きらりと透明な雫が目から流れる。花が慰めるように風に吹かれてそより、と揺れる。少女がそれに気付き、少し目を見張ったあと、痛々しく笑った。
「、――――連れていってよ、ねぇ 」
花が再び、ゆらりと揺れた。
風に翻弄され、不安定に揺れる姫百合の花はまるで少女のようで。
――花なんて詳しくないけど、この花を知ったとき1番に浮かんで来たのはお前だったよ。
澄んだ色で可憐に咲く、鮮やかな花。お前に1番似合うよ、百合――
夏に咲く、橙の花。
綺麗な青空に一際映えるその鮮やかで可憐な花は1番似合うと、そう、あの人に言われた花。その花が意味するのは――
「私には、やっぱり似合わないよ…――」
“強いからこそ美しい”