「桐原、手当て出来るか?こいつが手首捻ったんだが。」
マネ業をしていると、大坪先輩に呼び止められた。
「あ、はい、出来ますよ。」
「わりぃ、仕事中に。」
宮地先輩がばつが悪そうに謝る。何度か片付けを手伝ったものの、やっぱり怖いからちょっと緊張してしまう。みーちゃんや高尾も相変わらずよく怒られてるし。
「いえ、気にしないでください!道具持ってくるんでちょっと待っててください。」
「痛いですか?」
「あぁ、少しな。」
「これは?」
「それは大丈夫だ。」
緊張しながら手当てを進めていく。
「軽い捻挫みたいなんでテーピングしときますね。多分2、3日で治るとは思いますよ。」
手首の駆動域を確認してから手早くテーピングを施す。
「手際いいな。」
「へ?あ、ありがとうございます!従兄弟がスポーツトレーナーで、凄くしごかれたので…。」
急に褒められてびっくりしてしまったが、慌て返事を返す。
「へー。うちも漸くそれらしいマネージャーが入ってくれて良かったわ。」
先輩がどこか遠い目をしている。 確か今まで仕事のキツさにみんな1週間と続かなかったんだっけ。 お陰で部員の練習時間は削られるは部室は汚いわでもう…な。と以前大坪先輩が遠い目をして教えてくれた。
「あの、先輩。その…」
「あ?」
ちょうどいい機会だと思い、以前から言いたかったことを言おう!と口を開いたが、やっぱり先輩ちょっと怖い…!……ええい、女は度胸だ!
「、先輩、少し体幹が右に偏ってて、それのせいで少し右に負担がかかりすぎるんです。 だから、その、普段からもう少し体幹を意識すると左右にもっとバランス良く動けるようになる、といいますか…」
「は…?」
「うわぁ!ご、ごめんなさい偉そうに!轢かないでください!」
い、言わなきゃ良かった。え、私轢かれちゃうの?ぺちゃんこになっちゃうの?
「…んなことわかんの?」
「へ?」
「体幹がどうとか、見ただけでそこまでわかんの?」
あ、れ?怒っては、ない?
「一応、見れば体の硬さとか、バランスとかぐらいなら」
「………はは、」
「?」
「どうやらやっと入ったマネージャーはすげぇみたいだな。」
えーと、とりあえず怒られはしない、のかな? びくびくしてるとそれに気づいたらしい宮地先輩が私を見た。
「別にんな怯えなくても怒んねーよ。むしろお礼言いたいぐれーだよ。」
「お礼、ですか?」
「あぁ、これから体幹、てーの?意識してみるわ。」
どうやら本当に怒っていないらしい。はぁ、良かったぁ。
「よ、良かった…」
「手当てありがとな、真白」
私の頭をくしゃりと撫でて練習に戻った宮地先輩はどうやら思っていたより怖くない先輩みたいです。
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