体育館に足を踏み入れると、もう練習は始まっていた。キュッキュッとバッシュの鳴る音がして、あぁバスケだと改めて何だか懐かしくなった。
「やっぱ結構見学者いんなー。」
周りを見回すと、確かに高尾の言う通り制服姿の高1らしき男の子たちが沢山いる。皆こんな早くから見学にくるなんて熱心だ。でもまぁ秀徳ぐらいの名門校なら当たり前なのかも知れない。
すると、部長らしき人が練習を中断し見学者たちを集めた。見たことのある緑色の髪が視界にちらりと入り、誰が入ったか一瞬で分かってしまった。だってあんな髪色した高校生なんてなかなかいないから。
「はは、まじかよ…」
隣で高尾も何かを呟いたが、私の耳には入ってこなかった。
「とりあえず、見学者は練習を見ていってくれ。今日の練習はまだ軽い方だ。これくらい普通にこなせるぐらいの奴じゃないとバスケ部にはいらない。」
厳しい顔でぴしゃりと言いはなった先輩にほえーと感嘆が漏れる。 さすが王者秀徳。ある程度実力がないと必要はないらしい。
「さっすが秀徳だな。」
「私も思った。やっぱ王者名乗るレベルってすごいね。」どうやら高尾も同じことを考えていたらしい。ふっと目線を戻すと、見慣れた緑は見学者側ではなく選手側にいた。スポーツ推薦で来たからだろう。
「まさか緑間真太郎だったとはなー。」
「秀徳だったんだ」
「あれ、知らなかったの?」
私の呟きに高尾は不思議そうな顔をした。
「だいたいは知ってたけど、何故か何人か知らなかったんだよねー。」
まぁ、もうこの時点で私の希望は潰えたわけだ。悲しいような嬉しいような複雑な心境だなぁ。
「何、嫌いだったとか?」
にやにやした高尾が聞いてくる。でも残念、私は彼と存外仲が良かったのだ。テストの時にはよく彼の鉛筆にお世話になったなぁ。
「ふふ、期待に答えられなくて悪いけど、仲はそこそこ良かったよ。」
確かにきーちゃんやあっくんは苦手だったみたいだけれど。
「ふぅん、残念。」
「まぁちょっと取っ付きにくくはあるけどね。ツンデレだと思えば、そこら辺は大丈夫だよ」
「ぶはっツンデレ?!」
見ているだけでハードと分かる練習に案外普通についていっているみーちゃんを見る。見学者の何人かは少し苦い顔を浮かべてるのになぁ。 まぁ帝光も結構練習キツかったからこれぐらいなら着いていけて当たり前、か。隣の高尾も意外と大丈夫そうな顔で見てるし。
「うんツンデレ。高尾も話してみれば分かるよ。」
「ぎゃはは!何それ、スゲー楽しみなんだけど!」
そう言って緑間へ視線を向けた高尾の目には、からかうようなそれとは違う、何か真剣な色が混じっていた。
「ていうか、マネージャーいなくない?」
「あは、それ俺も思った。」
まさかそれだけ厳しいってことなのか。え、どうしよう。やっぱり入るのやめようかな。
「やっぱマネージャーもきついのかねー。」
「えーどうしよう。」
やっぱりやめておこうかなぁ。…げ、みーちゃんと目あった。
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