ふぅ、と一度深呼吸をして校門へと足を踏み入れる。 目の前には少し古いが、広そうな校舎が構えている。
今日から、ここが、私の通う学校だ。
「(み、見えない…!)」
クラス分けの表が貼り出されてはいるものの、流石マンモス校というか、人が沢山いすぎて跳び跳ねてみても紙さえも見えない。
「、と、ごめんなさい!」
何度か跳ねたところで着地したときに誰かの足を踏んでしまった。あぁ、申し訳ない。
「や、大丈夫だぜ。」
しかし、私が踏んでしまった男の子はそう言って爽やかに笑った。
「人多いし女の子には大変っしょ。」
いい人だ!中学時代の友人がいれば確実に「お前がちびだからだろ」っていうだろうのに!
「やっぱり人多いよねー。」
「さっすが秀徳って感じだよ。」
しかも気さくな感じときた!中学時代のせいで荒んだ私にはもういい人にしか見えない。あ、何か後光が……
「俺が見ようか?」
「え?」
「クラスだよ。名前なんてーの?」
「桐原、桐原真白」
私がそう名乗ると、男の子はちょっと待ってて、と言って人混みの中に消えた。 え、何あの人。もしかして菩薩なの?
ぽかん、とそんなことを考えていると、男の子が帰ってきた。
「俺とおんなじクラスだったぜ。」
「うわ、わざわざありがとう! というか足を踏んだ奴にこんなに優しいとか、天使か…!」
つい呟いた私に男の子はぽかんとした。うわ、やってしまった…!
「あ、や、そのえーと」
「ぶふっ…」
ん?ぶふっ?
「ぶ、あはははは!真顔で何いうかと思ったら天使って…!ははっ、やべ、つぼった!」
目の前で爆笑された私はどうすれば?というか今さらながら名前すら知らない
ちらりと顔を見ると男の子はまだ笑っていた。周りにいる子たちがちらちらと視線を寄越す。ちょっといい加減失礼だぞ!しかも何か恥ずかしくなってきた…!
「ちょ君どれだけ笑うの!」
「ん?あはははっわり、ぶははは!」
どれだけ笑い上戸なんだ。謝ってる意味ないし。
それから少しして漸く笑いが収まったらしい男の子に話しかけた。
「ひー、笑った。」
「あのー名前聞いても?」
「んあ、俺高尾和成。よろしくー」
「高尾ね、よろしく てか、笑いすぎだからね?」
「や、あれは桐原さんが天使とか…!やべまた笑えてきた、ぷっ」
「ちょっともう笑わなくていいから!ほら、もう教室行こう!」
私はやっぱりなんだか恥ずかしくて、高尾に背を向けてさっさと教室に向かった。
「あ、ちょ俺も行く!」
背後で高尾がそう言ったが、なんだか恥ずかしかった私は振り返らなかった。
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