久しぶりに負けというものを体験して、あぁこんなに悔しいことだったんだと悔しいのと同時になんだかとても懐かしい感覚がした。
けど、やっぱり悔しいの比重がとてつもなく重くて、胸がもやもやして、苦しくて。気づけば泣いていた。
「お前の双子座は今日の運勢最悪だったのだが…まさか負けるとは思わなかったのだよ… まぁどちらが勝っても不快な試合だったのだよ」
懐かしい声が聞こえて顔をあげればそこには不遜な緑と、あの子がいた。
「真白っち…?」
でも俺のそんな呟きは小さ過ぎたのか、彼は話を続けた。
「サルでもできるダンクの応酬…運命に選ばれるはずもない」
「お久しぶりっス。帝光以来っスね。ってか別にダンクでもなんでもいーじゃないっスか、入れば」
その俺の言葉に彼はだからお前は駄目なのだよ、と溜め息をはき遠くから決めてこそ価値がある、と言った。
やっぱりその持論は変わらないんスね。
「ってか何で真白っちがそこにいるんスか?」
「あはは、久しぶりだねきーちゃん。」
「久しぶりっス。じゃなくて、何で緑間っちと同じ学校なんスか!?俺の誘いは断ったのにっ!」
「や、家が近かったからさ。私も入るまでみーちゃんいるとは知らなくて…」
そうやって苦笑いを溢す真白っちに、俺が嫌だったわけではないんだと少し安心したがそれでも不満だ。
「知らなかったとは言え、緑間っち羨ましいっスよ!!」
「“人事を尽くして天命を待つ”という言葉を習わなかったか?まず、最善の努力…そこから初めて運命に選ばれる資格を得るのだよ。」
俺のジト目に、緑間っちは全く表情を変えずそういい放つ。相変わらず好きっスね、その言葉。
「真白っち!今からでも遅くないっスよ!海常に来てくださいっス!」
「え、遠いからやだ。」
………なんか最近フラれること多くないっスか、俺。うちひしがれていると、不思議な乗り物をひいた男の子がやってきて二人に怒鳴った。
「テメェら!渋滞に捕まったら二人で先に行きやがって…!なんか超恥ずかしかっただろうが…!」
俺は、彼の引いている乗り物を見た。リアカーと自転車………ありゃかなり恥ずかしースわ。緑間っちは相変わらず変だ。つか真白っちもよくあれに乗ったっスね。
「あ、ごめん!」
「もう此所に用事は無い。帰るのだよ高尾」
「もう?!」
「あ、先帰ってて!」
そんな会話の中で真白っちはそう言うと二人を先に帰した。リアカーに乗って去っていく緑間っちはとてもシュールだった。
「……きーちゃん。悔しいならさ、そんなに我慢しないでいいんだよ。」
優しい声が聞こえる。
「泣けるってことは、それだけきーちゃんが本気だったからでしょ?そんなに悔しかったならその分、きーちゃんはきっと今よりもっと強くなれるよ。」
引っ込めた筈の涙がまた尻尾をだす。 背中を撫でる少し小さな手が暖かくて、優しくて、ついすがってしまう。
そうだ、真白っちはこんな人だった。 普段は結構冷たいクセに、誰よりも俺たちを見ていてくれて“キセキ”とか“モデル”なんて肩書き関係なく、誰よりも俺たち自身を認めていてくれていた。 そしてさりげなくいつも欲しい言葉をくれるもんだから、俺たちはちょっとつれなくても真白っちが大好きだった。
だから、俺たちは…いや俺は“彼”を尊敬していたし好きだったけど、心のどこかで少し嫌いだ。そして彼女を過去に縛りつけた彼が、彼女の中に自分を色濃く残している彼が、羨ましかった。
まぁその彼に負けてしまった今じゃただの妬みにしか聞こえないかもしんないっスけど。
prev next
|