「なにこれ…」
目の前にあるのは木のリアカー…と自転車。さらに言うならば繋がっている。え、ホントになにこれ。
「何ってチャリアカーなのだよ。」
いやいや真顔で言うけど、チャリアカーとか初めて聞いたよ?! ほら、高尾も後ろで笑いこらえ過ぎてプルプルしてんじゃん…!
「これから海常に行くのだよ。」
「え、部活は?」
「今日は耐震検査で休みだぜー。」
「あ、そっか。っていやいやいや!これで行くの?!」
「当たり前なのだよ。」
そんな何故?みたいな顔で見られても……え、私がおかしいの?
「高尾、マジ…?」
「真ちゃんがこんな冗談言うと思う?」
マジなんだ。
「お前も行かないか?」
え、これに乗って?高尾を見るとお前もこの際道ずれだぜ、みたいな見たいな目で見られた。
「あ、ははは…」
どうやら腹をくくるしかないらしいね。
「もう何なのお前ら。」
高尾が半泣きだ。まぁそりゃそうなるよね。だってさっきから信号ごとにあるじゃんけんに全敗でずっとチャリアカーを漕いでるんだもん。 私もじゃんけんしなきゃいけないと言われた時はグーでみーちゃんを殴ってしまったけど。(いや、結局じゃんけんしたけどね。)
「先に行くのだよ。」
「え、ちょっと真ちゃん?!」
急にみーちゃんは立ち上がり、先に歩いて行ってしまう。
「え、こんなのに置いてかないで!」
「真白ちゃんまで?!」
高尾の嘆く声が聞こえて来たけれど、今までみーちゃんに隠れてたからこそ乗っていたんだ。みーちゃんが居なくなるなら、高尾には悪いけど私もチャリアカーを降りて彼を追う。高尾、ごめんね!
同じように歩いているのに先に行ってしまったみーちゃんを追いかけると、海常に入ってすぐに見つかった。
「ちょっとみーちゃん、置いてかないでよ!」
「足の遅いお前が悪いのだよ。行くぞ」
「え、ちょ何処に?!」
今度は置いてきぼりにされないようにみーちゃんを慌てて追いかけると、あの目立つ金髪を見つけた。ユニフォームを着ているから試合だったのかな。……って泣いてる…?
「お前の双子座は今日の運勢最悪だったのだが…まさか負けるとは思わなかったのだよ…まぁどちらが勝ったとしても不快な試合だったのだよ。」
ちょっみーちゃん、泣いてる相手に辛辣過ぎるよ。、というかきーちゃん負けたんだ…。
「サルでもできるダンクの応酬…どちらも運命に選ばれるはずもない」
「お久しぶりっス。帝光以来っスね。ってかダンクでもなんでもいーじゃないっスか、入れば」
彼、きーちゃんは不遜な物言いをするみーちゃんにも普通にそう返した。しかし、みーちゃんは更にいい募る。相変わらず女王様気質というか、なんというか…。
途中できーちゃんは私に気付き、どうして海常じゃないのか、今からでも遅くないから海常に来ないかと五月蝿かったが、丁重に断っておいた。遠いからやだと。
「テメェら!渋滞に捕まったら二人で先に行きやがって…!なんか超恥ずかしかっただろうが…!」
きーちゃんとみーちゃんが話を続けていると、ご立腹の高尾がやってきた。というか忘れてたよ、ごめん高尾。
私はもう帰るという二人を先に帰して海常に残った。無理やり涙を押し込めたであろう彼を、きちんと泣かせてあげたかったから。
昔から、きーちゃんはいつも笑顔を張り付けてあまり辛さを面に出さない人だったから。
「…きーちゃん。悔しいならさ、そんなに我慢しないでいいんだよ。 泣けるってことは、それだけきーちゃんが本気だったからでしょ? そんなに悔しかったならその分きーちゃんはきっと今よりもっと強くなれるよ。」
むしろ、私はきーちゃんが一度負けてくれて良かったと思っている。誰が彼を負かしてくれたのかは知らないけど、私は顔も知らないであろう人たちに感謝した。
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