「はー今日もキツかったわー練習。チョーキレられたし。てかコワイ先輩ダントツ一位だわ、宮地さんはマジで」
居残り練習がテスト期間中は禁止なので、練習後真っ直ぐ帰っていると高尾がそうぼやいた。 まぁ確かに今日は怖かったけど、私にはその分宮地先輩は誰よりも練習に取り組んでいるように見えた。
「みーちゃん、どったの?」
みーちゃんが立ち止まったので、見てみるとその宮地先輩が1人自主練をしていた。
すると、大坪先輩が声をかけて来たので高尾が疑問をぶつけた。
「あぁ宮地か。あいつはいいんだ、監督に許可もらってるから。成績もいいし。」
「いやぁ…いっつもコワイイメージしかなかったから…なんつーか意外っすねーあーゆートコ見るの」
高尾がそう言うと大坪先輩は少し意外そうな顔をしてから納得したような顔になり口を開いた。
「そうか…お前らは知らなかったか。俺には見慣れた光景だったんだがな。」
宮地はコワイか?大坪先輩はそう続けた。高尾が間髪入れずに答える。
「チョーコワイっすね!真ちゃんとか何度かチビってますからねー」
「チビってないのだよ!」
高尾のからかいに黙っていたみーちゃんが慌てて否定した。
「私も、ちょっとコワイイメージがあります」
「まあ厳しい奴だからな、人にも自分にも」
大坪先輩はどこか優しげな表情でそう言う。やっぱり3年間一緒だと、お互いにいろいろ知っているのだろう。
「今まで周りの何倍も練習してきて二年の夏にレギュラー入り。スタメンに選ばれたのは三年になってからだ。」
その話に少し驚くが、すぐに納得した。 帝光やみーちゃんが特殊なだけで、これが普通だ。それが王者秀徳ともなれば殊更だろう。
「決して才能がないわけじゃない…それでも血の滲むような努力をしてここまできたのさ そしてそれは木村も同様だ」
大坪先輩は自分の名前を挙げなかったけれど、きっと彼自身もそうなのだろう。
「だから誰よりもレギュラーである自負と責任を感じているし周囲からも信頼されてる。 後輩には少しキビしいかもしれんが」
宮地先輩が私の中で彼にだぶった。あの絶対的な才能の中で唯一異色で、それでも誰よりもバスケが好きだった彼。けど……だからこそ、あんなことになったんだけど。
アイドルの団扇をみーちゃんに渡している大坪先輩と、真顔のみーちゃんを見て吹き出している高尾に私は声を掛けた。
「私ちょっと忘れ物しちゃったから先帰ってて。」
後ろで高尾が何か言っていたが、無視して私は学校に戻った。
「ふう、」
学校に着くと、丁度宮地先輩が練習を終え片付けをしているところだった。
「宮地先輩!」
「!お前、マネージャー?」
「片付け、手伝います。」
「お、おう。つか何でいんの?」
「マネージャーは頑張っている選手を見つけたら全力でサポートすべし!」
「はあ?」
「私にサポートを教えてくれた人がいつも私に言ってたんです。」
まぁ、実は教室に忘れたノート取りに来てたまたま遭遇したんですけど、とつい私は嘘をついて苦笑いを溢した。
「はっんだそりゃ。」
先ほどは彼と重ねてしまったけれど、そう言って呆れたように笑った宮地先輩は少しも似ていなかった。
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