「そこ!足が止まってるぞ!」
「反応遅いぞ!」
「おい、それぐらいきちんと取れ!」
体育館に怒号が響く。 練習が始まって一週間、漸く一年生たちも体力づくりを終えたあと、ボールを触れるようになったがただでさえキツいロードワークの後だ、足が全く動いていない人も多い。
確かに、見学したときの練習くらい普通にこなせないとついていけないレベルだ。
「よし、10分休憩ー!」
やっとかかった休憩の合図にみんな体育館に崩れるように座りこむ。
私はドリンクを歩けなさそうな人たちに配り、また仕事に戻った。
「どうだ、マネージャー業は。」
「はい、だいぶ慣れました。」
「漸くマネージャーが出来そうだな。」
「キャプテンも言ってました。今まで長かった…!って。」
「どうだ、うちの部員たちは。」
「え?」
突然の監督の言葉になんと答えるべきか分からない。
「剛の弟子なのだろう。よく話は聞いている。」
剛、とは私の10歳上のスポーツトレーナーをしている従兄弟の名前だ。
「え、監督知り合いなんですか?」
「知り合いも何も教え子だ。」
まさかの新事実発覚だ。だから剛兄はあんなに秀徳を薦めてきたんだ。
「君が来てくれて良かったよ。で、どうだ。」
「あ、あはは。」
一体監督に何を話したの剛兄。もうこれは思ったことを正直に言うしかないのだろうか。………そうっぽい。
「レギュラー陣は、皆さんそこら辺のプレイヤーよりも頭1つ飛び抜けてます。けれど、やはり鍛え方に偏りがあったり柔軟性が足りなかったりと少なからず問題はあります。」
監督の目を真っ直ぐ見つめながらそこまで話す。すると、視線で続きを促された。
「一年生はやはりまだまだ中学生の体です。どの数値も普通に比べれば良い方でしょうが、これからを考えれば満足できるレベルではありません。」
「一年生で良いと思う選手は?」
「やはり緑間ですかね。フィジカルはまだまだ改良の余地がありますが、スキルは一年生の中では断トツです。」
「他は?」
「そうですね。スキルで言うなら高尾が良い“眼”を持ってると思います。フィジカルで言うなら飯田がいいですね。」
「ふむ。」
そこまで話して漸く監督が口を閉じた。こっわー。今度会ったら絶対剛兄殴る!そんなことを考えていると、監督が更に私に追い打ちをかける。
「6月からトレーニングメニューを考えてみないか。」
「え、は!?」
「お前の“才能”は剛から良く聞いている。今話を聞いて本物だと良く分かった。」
「や、でも私なんかが、」
「勿論私も話し合いには加わる。」
提案はあくまで疑問系だったもののどうやら拒否権は無いらしい。
「、分かりました。」
私がそう言うと監督は満足そうに頷いた。なんだかだんだん中学の時と大差無くなってきている気がするのは気のせいだろうか。
prev next
|