03
「茜。」
「元就様、」

佐助に部屋にいるように言われた茜が部屋の中であの少女のことを考えていると元就が部屋に入ってきた。

「あの猿に聞いた。大事はないか?」
「えぇ、助けて頂いたので…。心配をおかけして申し訳ありませんわ。」
「謝る必要などない。そなたが無事でよかった。」

そう言われ、優しく抱き締められる。

「元就様、」
「話を聞いた時は心の臓が停まるかと思ったわ。」

背中に回された手に力が籠り、茜は申し訳ない感情を感じると共に愛されているのだと感じ、不謹慎ながら少し嬉しくなった。
しかし、疑問が頭を過る。

「あの、元就様、天女様は一体……」
「茜、お主は我の事だけ考えておれば良いのだ。」

そう元就に優しく抱きすくめられ口を塞がれると、どうして彼女が私を殺めようとしたのだとか、彼女がどうなったのだとかいう疑問はどうでも良くなってしまった。



「ねぇ、」
「ひっ!」

かつん、と真っ暗な暗闇の中に足音が響き冷たい声がする。こっちに来る前は求めてやまなかった声の筈なのに、今は恐怖しか煽らない。

「あんたさぁ、茜ちゃんになにするつもりだったのかなぁ?」
「ぁ、…かは…っ」

ぎりっと首に彼の指が食い込む。

「旦那が気に入ってるから今まで我慢してたけど、」
「ぃ、やぁ…っ!」
「茜ちゃんに手出したとあっちゃ、我慢出来ないよねー」

目の前の彼はあは、と笑い声を漏らすが纏う雰囲気はまるで氷のよう。
ぎらりと暗闇で鈍く光るそれが、何の躊躇も感慨もなく自分へと降り下ろされた。

(あぁ――…この世界は私なんかお呼びじゃなかったのね。)

ぷつり、意識が途切れた。


「あら、佐助さん。このようなところでいらっしゃると冷えてしまいますよ?」

声のした方へ振り向けば、茜が緩く微笑みながら立っていた。

「茜ちゃんの言う通りそろそろ中に入ろうかな。」
「あら、頬が切れておりますわ。手当ていたしましょうか?」
「ん?――あぁ、大丈夫だよ。ほら、茜ちゃんも中に入らなきゃ風邪ひくよ!」

と、そこで茜を探しにきた女中が彼女を部屋へ連れ戻しにきた。
去っていく後ろ姿を見ながら佐助は頬の血を拭った。

「別に俺様のじゃないからね。」

けど、彼女はそんなこと知らなくていい。

(貴女はただ、綺麗なままで――…。)
back::next
×