02
「初めまして、天原由加里っていいます!」

女はそう言い、笑った。

「毛利元就だ。」

元就は何かが自分に絡みつくような、不快な情を感じた。

「初めまして、毛利元就が妻、茜と申します。」

しかし茜の澄んだ声が耳に入り、不快感は薄らいでいく。

「え?!妻…?!」

天原と名乗った女は信じられないとでも言うように目を見開いた。

「女、どうかしたか。」
「!いや、なんでもないです!」

不審に思った元就がそう問いかけると、由加里は直ぐ様笑顔に戻った。

「おぉ!お久しぶりにござりますな、茜殿!」
「相変わらずcuteだな!」
「お前、相変わらず元就になつかれてるんだな!」
「黙れ、小鬼。」
「ふふ、なつかれているだなんて…。皆様、お久しぶりにございます」

目の前でテンポよく親しげに交わされる会話に由加里は奥歯を噛み締めた。

「黙れ。さっさとここに来た用件を述べよ。」

自分の嫁が他の男と話しているのが気に食わないのか少し苛立った元就がそう言った。

「おぉ、申し訳ござらん。某達がここに参ったのは同盟の件でござる!」
「同盟だと?」
「わ、私が提案したの!」

由加里はチャンスとばかりに声をあげ、話し出した。

「戦をする度に人が大勢死ぬなんて悲しいだけだから…。私がいた未来は、戦争なんかなくて皆平和に幸せに暮らしてたの。だから、皆で同盟を結んで戦のない平和な世の中をって思って!」

「くだらんな。」
「え?」
「我はそのような世迷い言に付き合う暇はない。帰れ」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!元就!」
「身分もない女が我を呼び捨てにするな。」

元就に強く睨まれた由加里はひっと身を強ばらせる。

「元就様、皆様遠路はるばるいらして下さったのですから、今日明日くらいは…」

そこで茜がそう口を開いた。

「ふん。茜に感謝することだ。3日以内に帰れ。ただしその間二度とそのような世迷い言を我に聞かせるでない。茜、興が失せた。行くぞ。」

元就はそう言うと部屋を出ていった。茜も皆に深々と礼をすると、部屋を出た。

「……っ」
「由加里、わりぃな、あいつはあんなやつなんだ。悪いやつではねぇんだけどな、」

元親はそうフォローを入れる。由加里も大丈夫だよ、私もいきなり失礼なことしちゃったし…。と無理をしているように力なく笑う。

しかし、

「(あの女のせいだわ!むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくっ!元就だけ私のものにならないなんて、許さないんだから…!)」

心の中では不満が爆発していた。


「ちょっと、あんた。」

茜が庭に出ようと廊下を歩いていると、そう呼び止められた。

「あら、天女様。如何いたしましたか?」
「っあんたさえいなけりゃ私はっ!」
「、え?」

唐突にそう叫ばれ、鈍く光る刃が降り下ろされる。突然のことに、どうしようもない茜は固まってしまう。

しかし一向に茜に痛みは来ない。咄嗟に瞑った目を開けると同時に良く知った声が聞こえた。

「何してんの?」
「っ、佐助?!ち、違うのこれは…っ」
「黙れよ。自分が何したか分かってないみたいだね。」

佐助はにこりと笑うが、目は全く笑っていない。
「取り敢えず毛利の旦那に報告して。あ、あとこいつ縛っておいてね。」

佐助がそう言うと、何処からともなく忍が現れ命令を聞いた。

「大丈夫だった?」
「え、えぇ。けれど、彼女は…」
「茜ちゃんはあんな女のことなんて気にしなくていいんだよ。ほら、ここは冷えるから部屋まで送るよ。」

聞きたいことは山ほどあったが、佐助の有無を言わせぬ雰囲気に茜は従う他なかった。
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