俺の親友は治らない病気だった。

「美歌、調子はどうだ。」

「征十郎くん!」

彼女は俺が見舞いに行くと、にこにこと笑う。

「涼太が最近煩いんだがどうにかならないか?」

「ふふ、涼太は相変わらず元気だよねぇ。」

彼女が愛しそうに目を細めた。何故か胸が軋む。
彼女が口許に手をあてて笑うときにそこから伸びる頼りない管が見えて、それが彼女を生かしているのかと思うとひどくやるせなくなった。

「ねぇ、征十郎くん、」

「何だ?」

「あのさ、もしね?もし、私がいなくなったら、悲しい?」

「何縁起でも無いこと言い出すんだ。」

俺は返事をしてしまうと何だか現実になりそうで答えをはぐらかす。こんな感情持ったこと無いのにお前のせいだ、美歌。

「悲しい?」

それでも彼女の目は真っ直ぐ俺を貫く。

「、当たり前だろう。」

「そっか、当たり前、か。ふふっ、不謹慎だけど嬉しいなぁ。」

彼女は本当に嬉しそうに笑った。

「でもね、矛盾しちゃうかもだけど征十郎くんにも、涼太にも、私に縛られずに生きて欲しいな。
私のせいで悲しんだ以上に笑って欲しいなぁ。」

あ、でも欲を言うならやっぱりたまにあんなやつ居たなぁって思い出してくれると嬉しいかも、と
そう言った彼女の目はどこか覚悟を決めていて、俺は息がつまる。

「っ」

「征十郎くんや涼太は優しいからなぁ、――あぁでも試合は観に行きたかったな。きっと当たり前みたいに勝っちゃうんだろうけど、それも見たかったなぁ。」

遠い目をした美歌が夢を語るような口調でそう言う。

「これから試合がまだまだあるんだから、いくらでも来ればいい。もちろん、全部勝つ。」

そんな彼女の心境を察しているにも関わらず、こんなことを言う俺は残酷だろうか。

「じゃあ、私が見に行くまで負けないでね?
ふふ、何だか征十郎くんがそういうと、ほんとに行けちゃいそう。」

嬉しそうに笑う美歌の顔は出会った頃と同じで、本当は病気なんて嘘じゃないか、なんて思った。





試合が終わって家に帰ると、携帯に美歌からメールが入っていた。

―私、幸せだったよ!
来世でまた会おう、我が親友よ!―

何故か携帯の画面が歪んで、見えなくなる。

(おい、美歌。試合見に来るんじゃなかったのか。今日も勝ったぞ。負けるなんてありえないから、ちゃんと勝ち続けるから、だからお前もちゃんと来い、
約束を破るような奴じゃなかったはずだろう?)

メールはまだ下に続いていた。


―なーんて、私のことは忘れてくれていいからね!
本当に幸せでした!ありがとう!―

(………なぁ。お前は最期に何を見た?何を願った?誰を、想った?)

もうお前がいない今、確かめる術はないけれど、俺は最期にお前が願った事を守るよ。それが俺がお前にしてやれる唯一の事だから。
だから、今日ぐらいは、大目に見ろ。

俺の頬に生暖かいものが、流れた。
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