あれから俺は学校をさぼりがちになった。クラスの腫れ物に触るような接し方も嫌だったし、部活仲間がすれ違う度に寄越す視線にもうんざりしたから。
そしてなにより、美歌がいない世界は色が無くて、――こんな世界で生きる意味が無いんじゃないかってぐらい醜く見えた。


ピンポーン、

誰かが訪ねて来た。
お袋が何かを少し話をして家にあげたのが分かった。

「涼太、入るぞ。」

「赤司っち、」

やって来たのは、赤司っちだった。どうして家が分かったのかなんて疑問よりも先にやっぱりか、という気持ちが浮かぶ。だって赤司っちは美歌と凄く仲が良かったから。性格なんて正反対なはずなのに親友だったから。
赤司っちは部屋に入って来て、俺の前に座った。

何かもっと言われるのかと思ったが、予想とは違いただ赤司っちはそこで座っているだけだった。

「これ、見てもいいか。」

黙っていた赤司っちが俺の本棚のアルバムを指差しそう言った。

「いいっすよ。」

あのアルバムの中には、クラスメイトとの写真やバスケ部との写真、…美歌との写真が沢山入っている。

赤司っちは無言でそれを見る。

「ねぇ、独り言言ってもいいっすか。」

「………」

赤司っちは何も言わない。俺は構わず話し出した。

「美歌、さぁ、俺が行くと、どんなに辛くても笑うんすよね。こう、しょうがないなぁ、って呆れたみたいに、」

「、」

「俺、最近美歌のその笑顔がどんどん諦めたような笑顔に変わっていってたの、気づいてたんす。」

そうだ、俺が会いに行く度に辛いだろうのに美歌は俺に心配をかけないように必死に笑顔で隠してたんだ。

最近、本当に辛かったんだろう、その笑顔が苦し気だった。

「でも、俺、美歌に本音を吐き出して欲しい反面、知るのが、怖くて…っ
横にいてへらへら笑うしか、出来なかったんす…っ」

赤司っちがこちらを向いた。

「美歌は、お前がただ隣に居てくれるだけで嬉しい、とよく笑っていた。」

「っ」

「そして、自分に縛られずに自由に生きて欲しい、とも最近よく洩らしていたよ。きっとあいつは気づいてたんだ、もう自分が長くないということを。」

赤司っちの声が少し震えている気がした。

「そして、お前がこうなることも。」

それでも赤司っちは真っ直ぐ俺を見る。

「美歌…っ」

無理だよ、君を忘れて生きるなんて、無理だ。
たった15年しか生きていないけど、君は俺の中に鮮烈な記憶を残したんだ。
君は、俺の、全てだった。
だって君がいないだけで前が見えない、うまく笑うことすらもできないんだ。
何も言えない俺に、赤司っちは

「あいつが、あいつが最期に望んだお前は、今のお前かどうか、よく考えてみろ。」

そう言って部屋を出ていった。

「は、赤司っちはやっぱり強いっすねぇ、」

思わず髪をくしゃりとかきあげる。

分かってるんだ。君は自分のせいで俺がこんなになってるって知れば悲しむって。
でも、君がいないと俺はうまく呼吸もできないんだ。

(ねぇ、神様。もしいるなら俺も連れて行ってよ。)
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