side 幸村
たまたま教科担任が出張で自習になったので、俺は屋上へ向かった。
どこか息がつまる教室から抜け出したかったんだと思う。
けど、屋上の扉を開けると女の子がいた。
(はぁ、最悪だ。)
でもそんな考えは女の子の一言で覆される。
「あー私、邪魔しちゃってる?どっか行こうか?別にどこでも日向ぼっこできるし…」
正直、驚いた。この学校の女の子は、こういう時はだいたい無理矢理居座って俺と話そうとする。自意識過剰かもしれないが、過去が過去だ。それなのに、彼女は俺の気持ちを汲み取ったのか自分から場所を譲ろうか、と言った。
「……いや、大丈夫だよ。」
そう返せば、彼女はへらりと笑う。
「そ?ならおにーさんも日向ぼっこしませんかー?」
そう言う彼女の声色には天気がいいことへの喜びだけが溢れていた。
こういう声は好感が持てる。
だから俺は少しの期待と、緊張でこう問いかけた。
「俺のこと知らないの?」
そう言うと、彼女の顔色が真剣なそれに変わり、俺をまじまじと見つめた。
「え、おにーさんもしかして…」
「……(言わなきゃ良かったかな)」
またかと少し悲しい気持ちが込み上げてきたが、またも彼女は俺の予想を裏切った。
「ナルシスト?!」
まさかそんなことを言われるなんて思ってもいなかった俺は驚いた。
「は?!」
「まさか、きーちゃん以外にもこんなナルシーさんが…!」
確かに冷静に考えてみれば、ただのナルシな発言だ。何か自覚したら急に恥ずかしくなってきた…!
「や、いやいやいやいや、違うから!」
あわてて否定するも、
じーーー
彼女からの視線が痛い…!あぁあああさっきの俺の馬鹿っっ
「違うからね?!」
じーーー
何かもう挫けそうだ。
「信じてよ!」
もうやけくそでそう言うと、
「うはは、冗談だよ。ジョーダンっ!」
彼女は楽しそうにけらけら笑った。からかっていただけだと分かり少し、ほっとした。………嘘、かなりほっとした。
でもこんな普通の会話、久しぶりにした気がする。
「誤解が解けたなら良かったよ。俺は幸村精市、君は?」
「吉田雪だよー。ちなみに帝光からの交換生だぜぃ☆」
そうお互いに自己紹介をしたあと、一緒に過ごした。