「なんじゃ、どうかしたんか。」
雪が沈んでいると仁王が教室にやって来た。
「あぁ、仁王。なんでもね―…」
梓が大筋を簡単に説明する。
「で、今度は何で沈んでるの?」
そして仁王に説明し終えた梓が問いかけた。
「電話、したらばれちゃわない?」
のそり、と顔を上げた雪がそう言った。
「あぁ…。」
確かに。電話ならしないなんてわけにはいかないし、こんなにテンパってるこの子のことだ。絶対ボロを出す。いや、テンパってなくても雪は分かりやすいからバレるだろう。
「確かに電話は無理ね。盲点だったわ。」
「うわーん。」
こればっかりは梓にもどうしようもない。雪はもう半泣きだ。しかし、そこで
「電話ぐらいなら大丈夫ぜよ。」
仁王が声をあげた。
「は?」
「ほんと?!」
雪の顔が少し明るくなった。
「え、仁王。電話よ?取らないなんて無理よ?」
梓がそう返す。
「当たり前じゃろ。」
「じゃあどうするっていうの?」
流石の梓も分からないらしい。雪はさっきから期待の籠りすぎた眼差しを仁王に向けている。
「ふ、新川。俺の異名をいってみんしゃい。」
「は?詐欺師でしょ?」
梓は何を今さらといった様子で返す。
「そうじゃ。詐欺師には電話で隠しごとなんて朝飯前なり。
じゃから、雪。ばれないような話し方教えちゃるぜよ。」
「きゃー仁王!流石!男前!チョロ毛!」
途中迄うんうんと聞いていた仁王がチョロ毛の部分でずるっとなった。
「チョロ毛ってなんじゃ…。」
「え?そんなの気にしなーい!さ、仁王先生!教えて!」
雪のテンションは今高いらしい。仁王のつっこみも華麗にスルーして話しを進める。
「くっ!仁王!一回雪に頼られたからって、調子に乗るんじゃないわよ!」
梓が悔しそうに声をあげた。
梓のその様子に仁王は機嫌を良くしたのか、ふふん、と梓に向かって笑った。
「うぜー!仁王うぜー!!」
梓のキャラが崩壊甚だしい。仁王はそんな悪口も歯牙にも掛けず、雪に向き合う。
「まーくん(ハアト)って呼んでくれたっぐっは!!」
「だから調子に乗んな!」
仁王が言いきる前に梓の華麗な飛び蹴りが仁王に入り、それを目の前で見た雪は何が何だ分からずきょとん、としている。
「雪、あんなやつバカで十分よ!」
「ひ、ひどいぜよ。」
梓が雪にそう告げると、少しぼろっとした仁王が机によじ登り意義を唱えた。
「ふふ、じゃあ間をとってにーくんだね!」
雪はそんな二人を見てそう言って笑った。