「そうなんだよ!問題はそれなんだよ!」
雪はもう一度机をばんっと叩いた。
先程からご乱心な様子の彼女にクラスの子は心配そうにちらちらと視線を送る。
ご乱心でも可愛いなー。
違った。あんな彼女にも皆癒されている。
「マネージャーってね?合宿終わる迄って約束でしょ?」
「もちろんよ!そうじゃ無かったら今頃テニス部潰してるわよ!」
たまたまその瞬間に雪をちらっと見た何人かの生徒は、梓の顔が視界に入り勢いよく顔を反らした。あれは殺られる!
美人の怒った顔ほど怖いものは無いらしい。
「でね?いっそ隠し通そうと思ったの。」
そんな梓の顔を普通にスルーする彼女はきっとこのクラスで1番強い。
「昨日はバレた時はしょうがないって思ってたんだけど、やっぱり怒られるのヤダ!あーちゃんが怖いっていうぐらいなんだからきっとスッゴく怖いよ!」
いや、さっきの新川の顔も大概だと思うけど、何人かは思ったが口に出せば人生が終わることを知っているので思うだけだ。
てかあーちゃん誰だよ。今この中でそれをつっこめる猛者はいない。でもちょっと気になる。
が、クラスの心雪知らず。彼女はがたがたと震えている。
「顔に出やすいなんてどうしたら?!」
「とりあえずバレたわけじゃないんだから落ち着きなさい。」
「むりむりむり!」
「大丈夫よ!要はばれなきゃいいんでしょ?」
「そうだけど、私の幼馴染み変に鋭いんだからね!」
「はい、どーどー。」
「うぅー。」
「だから大丈夫よ。顔に出やすいなら会わなきゃいいんだから。」
梓のその言葉にがばっと雪が顔を上げた。
「合宿始まっちゃえば必然的に会えないんだから、それまでの日数会わなきゃ平気でしょ。」
雪の目がきらきらしている。
「あずちゃん、天才!その手があった!」
さっきまでの沈み具合は何だったのか小躍りまでしている。というかそんな簡単なことに気づかなかったのか。いや、それぐらい抜けてる方が雪ちゃんは可愛いんだよ!どこからかそんな声が聞こえた。
「やたー!ってあ、」
しばらく喜んでいた彼女の動きが止まり、また表情が沈む。
「今度はどうしたの?」
梓は呆れながらもそう問いかけた。
「ダメだ、あずちゃん。私結局詰んだ。」
そう言うと、ぱたり、机の上にまた沈んだ。