「あ、」
「どうしたの?」
2回目に取りに行ったスイーツを食べていると紫原が声をあげた。
「そういえばさーこの前黒ちんいれるの忘れてたんだー。」
どうやら電話した時のことを言っているようだ。
「あ、確かに!くーちゃんはあんなところでも影の薄さを発揮するんだねー。」
…何だか少し黒子がかわいそうだ。
「だねー。あ、雪ちん、クリーム付いてる。」
紫原はそう言って雪の頬のクリームを指でとるとそのまま舐めた。
「うわお、むっくんおっとこまえー。」
しかしそんなことをされても雪は雪だった。
「(まぁ、そんな女の子らしい反応期待してたわけじゃないけどなんかなー…)」
紫原の心境は何だか複雑である。しかし雪はそんな彼に気づくはずもなく、別の話題を話し出した。
「そういえばさー、私今テニス部のマネやってるんだよ!」
「えー?俺ら以外のサポートしてるの?てか何でテニスー?」
雪のその言葉に紫原は拗ねたように唇を尖らせ不満の声をあげる。
「はは、頼まれたからね。まぁちょっとだけだしさ。」
「む、ずるい。」
雪は宥めるようにそう言ったが紫原の機嫌はそんなことでは治らないらしい。
「むっくんは可愛いなぁ。」
「可愛いって言われても嬉しくねーし。」
しまった、さらに機嫌を損ねてしまったようだ。
「ご、ごめんむっくん!お詫びにこれあげるから!」
雪は苦し紛れに食べているケーキを一口差し出した。
「んー…まぁいっか。
あーん。」
「あーん。」
どうやら雪のあーん。で機嫌は治ったらしい。嬉しそうに彼女の差し出したケーキを食べた。
と、そこで紫原がはたと疑問を抱いた。
「てかさ、赤ちんは知ってんの?」
「知って……あれ、?言ってない、かも?」
「はぁ、俺知らないよー。」
紫原が呆れたような視線を向ける。何だか哀れみも混じっている。
「うにー。怒るかなー?」
「怒ると思う。」
少し不安げな顔をした雪に紫原が止めを刺した。キセキの皆に聞くところによると赤司は怒ると怖いらしい。雪はそこまで怒られたことが無かったが、今回はちょっとヤバいかもしれない。
「うあーどうしよー……。あ、でも、合宿終わる迄なんだよ!」
「合宿?」
「そう!だから合宿終わるまでばれなきゃ問題ない!もーまんたい!」
「(かーわいー)ばれちゃったら怖いよ?」
「そのときは、諦めよう!」
変なところでいさぎがいい。
「だからむっくん!内緒ね?」
「もーしょうがないなー。」
確かに赤司は怖い。そりゃ敵にまわすのは絶対にいやなぐらい怖い。
でも彼女に上目遣いで可愛らしくそう言われて断れる奴がいるなら見てみたい、紫原は雪の頭を撫でながらそう思った。