「桂木ちゃん、ごめんね?心配かけちゃった上に、マネ業も殆どできなくて…。」
幸村の指示通り走ったあと、雪は麗奈に謝っていた。
「、なら本当の理由教えてくださいますか?」
麗奈は雪にそう問いかけた。もちろん、優しい彼女が返すであろう答えは分かりきっているのだけれど。
「ごめんね、切原君がそれを望んでないからできないかな。」
眉尻を下げて申し訳なさそうに微笑む雪。
彼女はいつもそうだ。絶対に最優先する人を、1番仲のいい人を作らない。
誰にでも優しいから普段はよく分からないが、こういうときにはよくそれが分かる。きっと新川さんに聞かれても、彼女は答えない。
踏み込み過ぎて彼女に嫌われたくない一方で、彼女の事が好きだからこそ、敬愛にも近い感情を抱いているからこそ少し悲しい。
(けれど、だからといって私には彼女にそれを伝える術を知りませんわ。)
桂木麗奈は愛情を与えられた事が無いために酷く臆病だ。それも、初めて彼女に"無償の愛"という彼女が求めて止まなかった物を与えた雪に対しては尚更そうだった。
(でも、私はもっと貴女を知りたいのです。)
「じゃあ許しませんわ。」
「えぇ?!桂木ちゃーん、許して!私桂木ちゃんみたいな美人さんに嫌われたら生きていけない!」
大袈裟に泣き真似をする彼女に心の中で話しかける。
(ですから、これぐらいの我が儘は許してくださいね?)
「、それなら、1つだけ言うことを聞いてくださるのなら、それなら許しますわ。」
麗奈は少し震える声でそう切り出した。
「!聞く聞く!全力で聞く!」
泣き真似をしていた彼女がきらきらとした目でこちらを見る。
「――私のことを、下の名前で、呼んでくださいますか?」
麗奈のその言葉に雪がきょとんとした。
(っ言わない方が、)
「そんな事でいいの?」
「え、えぇもちろんですわ!」
麗奈がそう返事をすると、雪は嬉しそうに笑った。
「ありがとう!れーちゃん!」