side 仁王
交換生だと先生から紹介された女は不思議な奴じゃった。
めずらしく、あの新川が仲良くなっていて少し興味が沸いた俺は二人の話に入ってみた。
「酷い言い様じゃのぅ」
「化粧お化けは酷いだろぃ!ぎゃははははは!」
何故か丸井も入ってきたが大方俺と同じ理由だろう。
「よろしくー」
そう言って笑った交換生は普段テニス部にたかる女とは違う気がした。
そうは思ったもののやはり俺をどこか気にした様子のそいつに落胆した。
やっぱり同じか、と。
しかし、次に口を開いたとき、予想だにしなかったことを言われた。
「ね、白君、手首大丈夫?」
朝ひねったものの、幸村にも柳にも気付かれなかったそれをこの交換生は気付いたのだ。
しかもこちらを見上げてくる瞳には純粋な心配な色だけで、他の女の様な気分が悪くなるそれは一切混じってはいない。それがどこか心地よかった。
(だからつい手を出してしまったんかのぅ。)
交換生の手によってテーピングされていく自分の手を見ながらそんなことを考えた。不思議とさっきまで痛んでいた手は魔法にかかった様に痛くない。
「ん、出来た。一応2、3日は無理しちゃダメだよー。」
そう言って気の抜けたように笑った交換生に、少し自分の心臓が跳ねた気がした。
多分、俺はこいつを気に入ったんだと思う。
俺の手を平然と取り、顔を赤くすることもなく、丁寧にただ手当てをしてくれた、こいつを。
だからきっと普段女の名前なんて絶対呼ばないのに、交換生を、雪と呼んだんだ。(ちなみに丸井と新川が固まってるのは無視をした。)
胸に残るどこか甘い感情には今は気付かないふりをする。
(少し動かしても全く痛くないぜよ。
……確か、ナイチンゲール症候群、じゃったか?)
仁王はこれから楽しくなりそうだ、とくつりと笑いながら、左手のテーピングに優しく触れた。