「雪、桂木、ごめんね。あいつも悪いやつではないんだけど今までいろいろあったから。」
「私は別に気にしませんわ。」
麗奈はファンクラブの会長であるのだし、そのいろいろを把握しているのだろう。文句は言わなかった。
でも雪は何も知らないのだ。麗奈はあんなことをいきなり言われて大丈夫なのだろうか、と心配気な視線で雪を見やった。
「私もー。優しい子なんだねぇ。」
しかし、そんな心配を他所に彼女はけろりとしている。
「は?」
予想外の雪の答えに、丸井が疑問の声を上げた。他の皆も同じく不思議そうにしている。
「だって、あれだけ警戒するってことはそれだけ君たちが大切ってことでしょ?テニスだけしたいんなら別に自分だけ無視すりゃいいんだからあんな怒んないでしょ。
いい後輩だよねー。」
今までのマネージャーなら赤也がああいう態度をとると泣くか、怒るか。それぐらいだった。
それが、どうだ。気にしない、と言ってのけたうえにあんな態度をとった赤也を優しい子だと言った。
それは、自分たちの顔だけを見ていないという証拠だ。
初めてあった相手の気持ちすらも推し量り、理解しようとする。そんなことなかなか出来るものではない。あげく赤也は敵意まで向けていたというのに。
そこにいた部員たちは、何故あの桂木がこんなに彼女になついているのか良く分かった気がした。
「ふふ、やっぱり雪様は雪様ですわ。」
麗奈がうっとりとそう呟いた。
「桂木ちゃんどうかした?」
「いえ、ドリンクとタオルも渡したことですし、行きましょうか。そろそろ洗濯し終わっている頃ですし。」
「うん、そだね!」
部員たちはそんな会話を交わし去っていく二人の背中を見つめた。
「相変わらず、不思議な子だね。」
「まぁ、あれが雪じゃろ。」
「赤也も今の聞いてたら分かっただろうのになー。」
「名前は聞いたことあったけど、何かいいやつなんだな。」
「ジャッカル、いたのかよい。」
「?!さっきからいただろ!」
「ふふ、いたっけ?」
「幸村まで?!」
そして、そんな何気ない会話を交わしながら、幸村は思う。
(やっぱり、マネージャーを頼んだのが彼女で良かった。)