雪は授業をサボって校内を歩いていた。勿論先生には見つからないように。
「あ、今日も綺麗に咲いてる!」
この間見つけた色とりどりの花が植えられた花壇に行きたかったのだ。
「ん〜土はっと。…よし!」
土が乾いていることを確認し、水をやっていると
「あれ、雪?」
幸村が現れた。
「ふふ、幸村君も結構サボりさんだよね。」
振り返り、幸村だと分かった雪は悪戯っ子のように笑う。
「雪も人のこと言えないだろう?」
そんな彼女に幸村も悪戯に笑い、言葉を返した。
「んふふ、まあねー。
幸村君も花に癒されに来たの?」
「ふふ、まぁそんなところかな?」
実を言うと自分が手入れしている花壇の様子を見に来たのだが、敢えてそれを言うまでもないだろう。
「綺麗だもんねぇ、ここの花。きっと優しい人が手入れしてるからこんなに綺麗なんだろうね!」
ふわり、と柔らかく笑った雪に幸村の心臓がどくん、と跳ねた。
「何でそう思うの、?」
「それはねー、例えば…あ、この花はちゃんと手入れしてあげなきゃ枯れちゃう難しい花なの。
それなのにこんなに綺麗に咲いてるでしょう?花を大切にしてる証拠だよ。
こんな沢山花があって、全部大切に綺麗に咲かせてあげられる人が優しくない筈がないよ。」
しゃがみ込んで優しく花に水を遣りながら彼女がそう答えた。
幸村は雪を見ながら、彼女こそ優しいのだと思った。こんな片隅の花たちを見つけ、綺麗だと足を止めて、そして手が汚れることも厭わず花に水を遣る彼女こそ、と。
そして、同時に
「(あぁ、ごめん仁王。)」
同じ部活の恐らく彼女に恋をしているであろう友人に心の中で謝罪する。
最初はテニス部とか顔とか関係なしに無邪気に笑うその笑顔に友達になりたい、と好感を持っただけだった。
次は本当に楽しそうにバスケをする姿を見て、更なる好感と同時に、純粋に好きなことに没頭する姿に憧憬を抱いた。
そして、今。純粋な彼女の心に触れて彼女のその心が欲しい、とその真っ白な笑顔を俺に向けて欲しい、と、
「(俺も雪を好きになったみたいだ。)」
恋情を抱いた。
恋心を自覚した今、いくら自分が後から恋をしたからといって自ら身をひく気は、ない。